株式会社イルローザ
- 業種
- 食品製造業
- 導入規模
- 100〜300名
- 利用目的
- 品質管理の向上、ペーパーレス、製造工程のトレース
あきらめず目指した品質管理の向上、カミナシ導入で製造工程のトレースも実現
本業のお菓子づくりに専念できる品質管理のデジタル化
ふんわりした食感と優しい味のミルク餡で人気の徳島銘菓「マンマローザ」を提供し、県内9店舗を展開する老舗洋菓子メーカーのイルローザ。徳島産の優れた素材を活用し、地元はもちろん県外にもファンが多い同社の長年の課題は、製造工程をしっかり管理し、何か問題が起きた際に工程をトレースして原因を特定できる仕組み作りだった。そんな同社が品質管理の強化に向け、導入したのがカミナシだ。当初はなかなか製造現場にシステムが定着せずにあきらめかけた時もあったが、2023年にマンマローザの製造ラインでカミナシを使った品質管理を実現し、順調に業務を続けている。その取り組みと成果について、イルローザ 代表取締役社長の岡田圭祐氏、製造部 製造課長の三井大介氏、業務部 業務課 課長の岡真司氏、同じく業務部 業務課の村山和也氏に聞いた。
導入前の課題
- 異物混入など商品に問題あった時に原因をトレースできる仕組みがなかった
- 製造現場の紙帳票が大量にあり、記録や管理のために残業も発生していた
- 人によって記録の抜け・漏れが発生するなど、作業品質にばらつきがあった
導入後の効果
- 材料のロット番号や賞味期限を写真で残し、トレースできる仕組みを実現できた
- 紙を削減するとともに記録の手間を軽減し、本業のお菓子作りに専念できるようになった
- 記録する画面上に見本画像や逸脱時の対処法を示すことで、作業品質の標準化に繋げられた
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徳島の地産素材を使った菓子で県内外から支持されるイルローザ
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1986年創業のイルローザは、国産小麦を使用した銘菓「マンマローザ」や、地元特産の鳴門金時を使った「鳴門金時ポテレット」など人気スイーツを数多く製造・販売している徳島の洋菓子メーカーだ。焼き菓子だけでなく、苺のショートケーキやモンブランなどの生菓子も人気で、店舗は連日多くの顧客で賑わっている。
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そんなイルローザは、現在の代表取締役社長である岡田圭祐氏の両親が始めた飲食店が礎となっている。「飲食店を経営していた両親は展示会でジェラートマシーンに出会って衝撃を受け、そこでデザート一本に絞って菓子業にシフトしたんです」と岡田氏は説明する。当時はまだ徳島市内において洋菓子専門店は少なく、神戸の洋菓子店を視察し、華やかな焼き菓子や生菓子がバラエティ豊かに提供されているのを見て、少しずつ商品ラインナップを増やしていったという。
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美味しさの追求も怠らなかった。外部から商品開発顧問を招き、そのアドバイスを取り入れて良い材料を惜しみなく使い、商品作りに邁進した。特に留意したのは、地場の特産物を使うこと。「徳島の美味しさを多くの人に届けたい」という思いで地域から末長く愛される商品になることを目指し、徳島の自然の恵みを使った菓子作りに取り組んできた。その姿勢は、現在のイルローザにも受け継がれている。
問題発生時にトレースできる製造・品質管理の実現が課題
岡田氏が社長に就任したのは2019年のことだ。創業から33年経ち、県内にいくつもの店舗構える人気スイーツ店になっていたが、社会環境の変化によりさまざまな課題が浮上していた。中でも大きな課題は、コンビニスイーツの台頭や大手飲食チェーンの進出によりデザートの選択肢が増えたことだ。ただでさえ少子高齢化で顧客が自然減少するなか、地域密着型の店舗として顧客接点を守っていく必要がある。
「そうすると見知った人との取引だけでなく、間に多くの事業者さんに入っていただきながら売上を上げていく必要があります。当然、そうした事業者さんたちの責任をすべて負う立場になるので、『しっかりやっています』と言うだけではなく、何かあった時には製造工程や原材料をトレースして原因を特定できないといけません。これをどのように実現するかが最大の問題で、HACCP義務化以前からずっと検討してきました」(岡田氏)
トレースシステム実現のハードルは何と言ってもコストだ。プリンターなどを含むハードやソフトに加え、導入費用や人件費もかかる。またHACCP対応についても、“認証を受けるための管理業務”が増えれば、本業である菓子作りに専念できなくなったり製造現場のモチベーションが低下したりする懸念もあり、システム化の検討を重ねては立ち消えとなった。
焼き菓子の製造ラインを担当するイルローザ 製造部 製造課長の三井大介氏は「現場には管理用の紙帳票が膨大にあり、何か問題が発生したら、とりあえず製造現場の誰かが調査するという形でした。取引先企業の方から『製造現場に紙はできるだけ持ち込まない方がいい』と言われることもあったのですが、具体的な対策はできないまま時が過ぎていきました」と振り返る。
紙を削減しながら品質管理ができるカミナシを導入、一方で現場では抵抗も
「やらないといけない」という認識はありつつ、具体策に踏み出せなかった同社だが、数年かけて少しずつ変わっていった。イルローザ 業務部 業務課の村山和也氏が2019年に入社したこともきっかけの1つだ。村山氏は品質管理業務を希望して入社し、まずは製造工程を学ぶために製造現場に配属された。
またHACCPに基づく衛生管理の義務化が進み、三井氏も「対策が必要」という思いが強くなり、外部開発顧問に相談した。そこで紹介されたのがカミナシだ。詳しい話を聞くために早速カミナシに電話したところ、HACCP対応のためのツールとして使えるほか、課題だったトレースも実現できることがわかった。何より「紙を減らせる」という点も評価し、「これなら以前から懸念だったトレースができるかもしれないと興味を持ち、岡田社長に提案することにしました」(三井氏)という。2022年1月のことだ。
三井氏から相談を受けた岡田氏は「現場から業務改革のためのITを提案されたのは初めてだったので、本気で取り組む気概が見えてとても嬉しかったです」と話し、以下のように続ける。「衛生管理や品質管理に関する手間はありますが、私自身はそれらにきちんと取り組めば、むしろ生産性向上に直結すると考えています。ただトップダウンで『このITツールを入れなさい』というよりも、現場から上がってくる意志を尊重したいと考えました」
しかし従来からのやり方に慣れた従業員からは歓迎されなかった。設備点検を担当するイルローザ 業務部 業務課 課長の岡真司氏も当初難色を示した1人だ。
「今までできていなかった製造ラインのトレースを果たしてできるようになるのか懸念がありましたが、「カミナシ」の設定画面を見ると、これまでと同じような冷蔵庫の温度管理の雛形があることがわかったんです。そこでまずは、そうしたすでに現場で利用している紙帳票と似た雛形を踏襲する形で最初の導入はすんなり始められました」と岡氏は話す。
そうして製造ラインのトレースや、新たにHACCP対応にまで踏み込んで進めようとしたところ、壁にぶつかってしまう。特に生菓子の製造ラインは工程が複雑でカミナシの設定がうまくいかず、現場にカミナシが定着する前に暗礁に乗り上げてしまった。そこで焼き菓子のマンマローザ製造現場での導入に的を絞ってプロジェクトを進めたが、繁忙期で中断したり、現場の定着が進まなかったりなどで、一時は頓挫しかけたという。それでもマンマローザラインでカミナシの導入・定着を進めることができたのは「あきらめなかったからです」と三井氏はいう。
「自分から言い出したことなので、やらないといけないという思いがありました。カミナシさんに相談したところ、すぐにカスタマーサクセスの担当者の方に来ていただき、関係者全員でカミナシ導入の目的を明確化・共有することができました。そこで改めて『カミナシで品質・製造管理を徹底しよう』というモチベーションが活性化されたのです」(三井氏)
2023年4月には村山氏が品質管理担当になり、HACCPのためのフローチャート作成やカミナシのテンプレート作りに当たるなど中心になって動いた。村山氏は「これまで紙で行ってきた業務をいきなりタブレットに切り替えたら、やはり現場に戸惑いはあると思います」と理解を示し、製造ラインの工程を視察し、どの工程でどのようなことを行なっているのか自分の目で確かめてから必要なテンプレートをカミナシで作成した。そして作成したテンプレートを持って現場に行き、使い勝手はもちろん、項目の要・不要などのレビューを受け、現場の従業員が使いやすいように改善していった。
カミナシ導入後は問題原因のトレースやチェック項目の抜け・漏れも解消
こうして2023年6月〜7月にかけてマンマローザの製造ラインでカミナシへの移行が完遂した。焼きオーブンの温度と焼成時間が画像で残せるようになり、温度チェックの抜け・漏れがなくなった。温度も紙への記入と異なり、タブレットで温度を選べばいいだけなので業務スピードも速くなったという。清掃状態も写真で残せるうえ、同じ画面を使って業務の記録も振り返りもできるようになったので管理業務そのものが楽になった。
製造機械の点検も見本画像で確認箇所が明示されており、何か問題があった場合は対処方法が雛形に示されているため、誰もが同じ品質で作業できるようになった。餡や乳菓の材料管理は、材料にあるロット番号や賞味期限などのシールを写真に撮ってカミナシで保管し、製造した半製品の情報を記載して保存することで、トレースが容易になったという。紙がデジタル化されたことで、「何て書いてあるのかわからない日報もなくなりました」(岡田氏)という。一方で岡田氏は「カミナシの導入効果が劇的に出てくるのはこれからだと思います」との見解を示す。
「ただ、変えていかないといけないという意識を持ち、それを製造現場の3人がやり続けたという成果が最も大きいと思います。これまで、思いだけではなかなか実現できなかったのですが、1つしっかりやり遂げることができました。これは誇れることだと思います」(岡田氏)。
「これまで発生していた管理業務の抜け・漏れの解消や、何か起こった際の対策など、1つひとつの問題が解消されるなか、効果は複利的に出てくるものだと考えています。カミナシの活用を進めていくことで、日々のコミュニケーションで生じる小さな齟齬も解消することができれば、仕事の習熟期間も短くなり、本人だけでなく一緒に働く他のメンバーにとっても、いい変化になっていくだろう」と話し、人材育成や定着化の観点からもこれからの変化に期待を寄せる。
この意見に三井氏、岡氏、村山氏の3人も「品質管理の向上に向け、今回前進できたことは大きな成果です」と大きく頷く。今後は、8名いる外国人研修実習生に向け日本語・クメール語を併用した画面改善を進めるほか、他の製造ラインにもカミナシを導入して定着を図り、さらなる紙の削減と成果拡大に向け取り組んでいく。
現場のこだわりポイント「徳島の生産者を応援したい」
「マンマローザ」のミルク餡に徳島県産の牛乳がたっぷりと使われているほか、県内の農家でていねいに育てられ た、さつまいも、ゆず、ブルーベリーなど、イルローザのお菓子は、県内で生産された素材を中心にこだわりの素材が使われている。
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