導入事例

食品安全の認証取得をきっかけに、既存の品質管理体制の刷新を決意

作成者: カミナシ編集部|Jul 5, 2024 1:45:00 AM

丹波杜氏の匠の技を継承し、
「初」の試みを数多く手がける酒造業界の変革者

超特撰純米吟醸「惣花」をはじめ、水・米の自然の恵みにこだわった日本酒を製造・販売する日本盛。同社の歴史は1889(明治22)年にさかのぼる。兵庫県西宮の産業発展を目的に、地元の有志を中心にして酒造業を開始。以来130年以上にわたって、丹波杜氏の匠の技を受け継いだ酒造りを続けてきた。

一方で、現在の本社がある兵庫県西宮市は「日本三大酒所」に数えられる灘五郷に位置し、その歴史は300年近くに及ぶ。周辺には日本盛よりも古い歴史を有する酒造業者も少なくない。そうした背景から、日本盛には「伝統」とともに「革新」を重んじる社風が根付いている。創業120周年を機に制定したスローガンは「もっと、美味しく、美しく。」。最新の醸造技術を積極的に導入するほか、酒造業界初のボトル缶入り生原酒をリリースするなど、幅広い分野で「もっと」を追求している。

食品安全マネジメント規格の認証取得をきっかけに、
紙の帳票削減に舵を切った

新価値創出に向けた取り組みは、製造や商品開発に留まらない。同社は2023年6月からカミナシを導入し、品質管理や設備点検などに用いられる紙の帳票をデジタル化した。従来、業務効率を低下させる要因となっていた紙の帳票を削減し、業務負担削減や記録精度の向上を目指している。以前の同社におけるデジタル活用の状況について、取締役生産本部担当兼生産企画部長の中江貴司氏は振り返る。

「10年ほど前から『デジタル化を進めなければ』という問題意識は広く共有されていたと思います。私自身も5年前に生産本部の部長に就任してからは、紙の帳票に起因する業務効率の低下を問題視するようになりました。しかし、どうすれば紙の帳票を削減できるのかについては、なかなか答えが見つからず、解決策を模索する状況が続きました」(中江氏)

さらに、2022年に食品安全マネジメント規格の「JFS-B規格」に認証を受けてからは、紙の帳票に起因する業務負担はさらに増大した。JFS-B規格の認証には、施設や設備、衛生、廃棄物、有害生物の侵入リスクなど、さまざまな要求事項の管理が求められる。そのため、認証取得後には製造現場に紙の帳票が急増し、従業員の記録作業に要する手間は大幅に膨れ上がった。1日に発生する紙の帳票も増加し、監査時には毎回段ボール8~9箱ほどの紙の帳票を用意することもあったという。

日本盛は「FSSC22000」の認証取得も検討している。しかし、従来の紙の帳票による管理では、より精緻な要求事項が求められる規格に対応するのは極めて困難だった。こうしたなかで、同社は紙の帳票のデジタル化に向けた取り組みを開始することになる。

頭ひとつ抜けた「操作性の高さ」が決め手。
入念な改善作業でカミナシの定着を進めた

紙の帳票の削減を目指して、日本盛はさまざまな製品をリサーチし、比較検討を実施した。そのなかで選定されたのがカミナシだった。カミナシを選定するうえで、特に高く評価したのが「操作性の高さ」。システムを製造現場に導入し、普及していくには、ユーザーである従業員たちの要望を吸い上げ、ひな形に反映する必要がある。しかし、操作性が複雑なシステムでは、ひな形の改善に時間を費やし、システムの普及に歯止めがかかってしまう。その点、カミナシは直感的に記録ができる、帳票のひな形が作れるような設計になっていること、さらにはこれまでの紙帳票だと実現が難しかった、作業と指示出しをあわせた様式が可能になるなど、業務の標準化を後押しする機能も備えていた。導入時の価格は比較検討した他社製品と同程度であったが、改善によって得られる費用対効果が大幅に上回っていたことから、日本盛はカミナシを選定することにした。

こうしてカミナシの導入を決めた日本盛は、製造現場を担当する生産部のメンバーを中心に導入プロジェクトを推進する。この際に重視したこととして、生産部課長補佐の清水淳司氏は「とにかく従業員が利用しやすいシステムを目指しました」と話す。

「社内でデジタル化の機運が高まっていたとはいえ、現場の従業員たちはタブレットに入力作業をするのは初めての経験で、敷居の高さを感じているようでした。実際に、私自身もカミナシ導入を懸念する現場の声をたびたび耳にしています。そのため、導入時には従業員たちの要望をいかにシステムに反映できるかに注力しました。定期的に現場の従業員たちとコミュニケーションを取り、ひな形の構成や質問項目などについてヒアリングを実施。さらに、一つのひな形につきスクロール形式と表形式の二つのデザインを作成し、その両方を展開して従業員たちの反応を見るなどして改善を重ねました。こうした取り組みを続けるうちに、カミナシへの忌避感は次第に薄らいでいき、導入から2~3ヶ月後には多くの従業員たちが違和感なく利用するようになっていました」(清水氏)

こうした取り組みは、社内のデジタル化への機運をさらに高めることになった。清水氏らの活動を受け、他部署で管理業務を手がけている担当者の間にもカミナシの活用が拡大したのだ。日々の管理業務の煩雑さに課題を感じていたものの、改善のきっかけを掴めずにいる担当者は少なくなかった。そうした人々にとって、カミナシの導入は従来からの課題を解決する格好の契機だった。こうしたなかで、カミナシは社内に広がっていき、既存の管理業務の形を変えていった。

年間223時間の業務負担を削減、従業員の意識変革も進む

現在、日本盛では、カミナシにより製造現場などで用いられていた20以上の様式がデジタル化されている。具体的には、設備管理に用いる「機器部品欠品および破損チェック表」や、作業内容の記録に用いる「担当者作業チェック表」など、活用範囲は幅広い。

こうしたデジタル化による成果は着実に現れつつある。従来、これらの帳票の印刷から保管までの一連の作業には、1日につき20分ほどの時間が費やされていた。この作業時間がほぼゼロに削減されたうえ、監査対応にかかる時間が10時間ほど低減し、日本盛では年間1,400枚の用紙削減、年間223時間の業務時間削減が実現している。

未展開の業務にもシステムが拡大されれば、業務時間の削減効果は年間1,000時間にものぼる見込みだ。また、入力制御やアラート機能の活用により、記録時の抜け漏れや誤記なども激減。現在、展開しているひな形の記録率は100%に達している。これにより、より精緻な作業記録が可能となり、品質管理体制のさらなる強化が実現した。

さらに、カミナシの導入は、従来はデジタル化が困難だった業務にも変革をもたらしている。その状況について、生産部の水野賢一氏は説明する。

「現在、各設備の検針業務にカミナシを活用しています。検針業務は、以前、紙の帳票を持ち運んで各設備を点検しながら記入し、その後に事務所に持ち帰ってExcelの管理表に転記するという流れで行っていました。この一連の作業に費やす手間は少なくありません。私自身も2年前に当社に入社したときには『こんなにアナログな方法で管理しているのか…』と驚きました。そこで、設備のメーターをカメラで撮影して入力作業を自動化するシステムを導入しようとしたのですが、その際にはカメラの精度が低いために思ったような成果が得られず、取り組みを断念しています。そうした経験があったため、業務改善には後ろ向きなところがあったのですが、今回のカミナシの導入で、その思いは一変しました。カミナシであれば、とても簡単に紙の帳票をデジタル化できますし、実際に手書きでの記録作業やExcelへの転記を削減できました。何より、課題を感じていた既存業務を、担当者のちょっとした工夫で改善できる体制を築けたのが、最大の成果だと思います」(水野氏)

こうしてカミナシは従業員の意識変革にも貢献し、日本盛のデジタル化を強力に後押ししている。

カミナシのさらなる活用で、
製造工程全体を管理する「品質保証システム」を確立したい

今後、日本盛はカミナシの活用範囲を拡大し、製造現場のデジタル化をさらに加速させる。その先に見据えるのは、より良質な商品の製造を可能にする「品質保証システム」の確立だ。今後の展望について、生産本部本部長の松村健治氏は語った。

「ひとまず、現場の管理業務を正確かつ抜け漏れなく記録できる体制は整ったので、今後は醸造工程や物流工程にもカミナシを展開し、サプライチェーン全体をデジタル管理するのが目標です。特に私が期待しているのが、官能検査の標準化です。官能検査とは、五感で商品の品質を判定する検査のことで、お酒の味や香りを評価するうえで欠かせない業務なのですが、人間の感覚に依存するため、どうしても人によってバラつきが生まれます。そこで、この作業をカミナシで標準化できないかと思っています。具体的には、写真撮影機能を活用して、商品の色や泡立ちを客観的に記録し、検査時の評価基準にしたいです。こうした取り組みを通じて、カミナシを品質管理の体制を強化する『品質保証システム』に育てていくのが、現在の目標です」(松村氏)

製造業において品質管理は極めて重要な位置を占める。特に、食品や飲料においては、商品の価値そのものといっても過言ではない。日本全国に多くのファンを有する日本盛の「美味しさ」を、カミナシの各種機能が支えていた。

 

(本記事は2024年5月に取材した内容となります)