日本を代表する食肉加工メーカーの日本ハムグループ。そのなかで、ハム・ソーセージの製造・販売を担うのが日本ハム北海道ファクトリーだ。1961年の設立以来、「シャウエッセン」をはじめとした日本ハムブランドのハム・ソーセージを数多く世に送り出してきた。2022年には経営統合を行い、函館や青森にも拠点を展開した。
組織体制を強化し、さらなる品質向上を目指す同社だが、その実現に向けて製造や品質保証の現場では新たな施策が始まっている。その一つが、作業記録や設備点検などに用いていた紙のチェックシートのデジタル化だ。取り組みが進んでいるのは青森生ハム工場。日本ハムグループの生ハム製造を一手に担う拠点であり、一般消費者向け商品から業務用、ギフトなど、約50品目の商品を製造している。
なぜ、青森生ハム工場は、紙のチェックシートのデジタル化に着手したのか。その理由について、品質保証課長の髙松真由美氏は説明する。
「以前、品質保証課で品質管理の調査を実施したところ、製造課や品質保証課などの5部署で113種の紙のチェックシートが存在していることがわかりました。それにより、1日で費やされる用紙は約310枚、年間では75,000枚にものぼります。こうした大量の紙のチェックシートは業務負担の要因でした。例えば、現場の作業者は、チェックシートを汚したり、濡らさないように気を配りながら記入しなければいけませんし、管理者は所定の場所にチェックシートを配布したり、承認のハンコを押すのに1日30分以上の時間を要していました。これらの業務負担はヒューマンエラーの原因でもあったことから、紙のチェックシートのデジタル化は急務でした」
髙松氏は「そもそも8時間の勤務時間中、常に集中し続け、絶対にミスをしないということのほうが難しいはずです」と話す。無機質に並んだチェック欄に機械的に記入を続けていれば、いずれ誤記や記入漏れなどのヒューマンエラーは発生してしまう。にもかかわらず、ミスをしないように配慮を求めるのは、作業者への精神的負担にも繋がる。これは、管理者も同様であり、作業に逸脱がないかを紙のチェックシートから見つけ出すのは多大な労力を要する。従業員の心理的負担を削減し、より働きやすい環境を整えるためにも、紙のチェックシートからの脱却が求められていた。
紙のチェックシートのデジタル化を検討するなかで、青森生ハム工場はカミナシに出会う。品質保証課の担当者が、ペーパーレス化に関するITツールをリサーチしていたところ、カミナシの製品サイトに辿りついた。シンプルかつ明快なネーミングが印象に残り、工場の上層部に導入を申し出たところ、すんなり承認を受けた。上層部も以前から従業員の業務負担を課題視しており、カミナシの業務効率化の効果に期待しての決定だった。
カミナシの導入を決めた青森生ハム工場は、システムの構築に着手する。この際に注意したポイントとして、品質保証課品質保証係の小林智美氏と洗平佑季氏は「設備課や品質保証課などの間接部門から導入すること」を挙げた。
「製造課の従業員は、ライン作業のなかでチェックシートへの記入を行うため、作業手順の変更など初手から影響範囲が大きいことがわかっていました。そのため、まずは製造課ではなく、設備課や品質保証課などの間接部門からカミナシを導入し、部分的に成果を出しながら導入範囲を広げていく方針を採りました」
システムを導入しやすい部署から着手する方針は功を奏し、設備課や品質保証課にはスムーズにカミナシが定着。その後、製造課にも波及し、チェックシートへの記録作業が少ないラインから導入が始まった。当初、タブレットへの入力や画面のスクロールに戸惑う作業者も少なくなかったが、画面レイアウトを調整するなどして、製造課でも利用しやすいチェックリストを構築。システムへの抵抗感を取り払いながら、導入範囲を拡大していった。
現在、青森生ハム工場では5部署でカミナシが利用されている。これまでに約40種の紙のチェックリストを削減し、タブレットでの記録作業に移行させた。
さらに導入の成果として、製造課設備管理係主任の沼山瑛希氏は、日常的な業務負荷の軽減を感じているという。
「カミナシを利用しはじめて、従来の紙のチェックリストがいかに業務の負担になっていたのかを思い知りました。私は工場の設備管理を担当しているのですが、設備点検の際には屋内だけでなく、屋外も歩き回ります。そのため、雨や雪の日には、紙のチェックリストが濡れたり、破けたり、風で飛んでいったりすることが、たびたびありました。また、しゃがんだり、高所に登ったりしながら、紙のチェックリストに記入するのも面倒でしたし、何より誤記の要因になります。その点、現在は防水カバーをつけたタブレットを持ち運ぶだけでよく、記録作業も画面をチェックするだけです。これによる業務負荷の軽減は決して少なくありません」
また、沼山氏は管理者としての効果も感じているという。沼山氏は冷房設備やボイラー設備などに関する日報を月次で報告しているが、従来は紙のチェックシートの内容をExcelに転記して集計していた。しかし、現在では、カミナシのExcel出力機能を活用し、集計作業を自動化しているため、毎月の報告業務が大幅に効率化している。こうした効率化は設備管理係以外でも進行している。
さらに、製造課では基準値以外の入力にはアラートを表示して、作業者の入力ミスを削減したほか、逸脱時には管理者にリアルタイムでメールを通知する体制も築いた。これにより、作業者、管理者ともにヒューマンエラーが抑制され、誤記や見落としに対する精神的負担も大幅に軽減されている。
今後、青森生ハム工場はカミナシのさらなる導入範囲拡大を図る。工場の照度記録や騒音記録など、社内監査に関するチェックリストにもカミナシを活用し、監査体制をさらに強化する方針だ。また、カミナシの導入は他の工場にも及んでいる。青森生ハム工場への導入後、日本ハム北海道ファクトリーはカミナシのアカウントを追加。全社レベルで紙のチェックリストのデジタル化にのぞんでいる。その先に同社が見据えるのは、デジタルを活用した情報の一元化だ。その構想について、髙松氏は説明する。
「原料の調達から出荷までの情報を一元的に管理するのが最終的な目標です。例えば、ある商品が、いつ納入された原料で製造され、いつ出荷されたのかといった情報が可視化されていれば、現在以上のトレーサビリティを確保することができ、さらなる品質向上が望めます。そのためにも、今後は導入範囲を拡大するとともに、チェックリストを作成できる管理側の人材を養成しながら、カミナシの活用を深めていきたいと思っています」
日本ハム北海道ファクトリーにおけるカミナシの活用はまだ始まったばかり。青森生ハム工場での成功を踏まえれば、導入範囲の拡大とともに、カミナシの効果はますます高まっていくに違いない。どのようにカミナシを活用し、さらなる効果を生み出していくのか。今後の同社の動きからも目が離せない。
TEXT:島袋龍太
現場のこだわりポイント
日本ハムグループの生ハム製造を一手に引き受ける青森生ハム工場。生ハムの製造においては、塩蔵して燻煙し、熟成・乾燥させる「ドイツタイプ」を採用し、日々、一般消費者に美味しい生ハムを製造している。2022年にSNSで話題になった商品「乾燥させた生ハム」も同工場で製造された人気商品だ。
※本内容は2023年10月現在のものになります。
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