「富士を世界に拓く」を創業理念に、鉄道、バス、不動産、レジャーなどの事業を展開する富士急行株式会社。そのグループ会社であり、アウトドア宿泊施設の運営などを手がけるのがピカだ。ピカは富士山麓、山梨、静岡を中心に2023年10月現在26拠点の施設を運営。「人と自然のインターフェースになる」をミッションに、アウトドア、飲食、物販、アミューズメントなどの幅広い事業を展開している。
また、近年、ブームを迎えているグランピングのスタイルをいち早く取り入れたことでも知られる。2005年のPICA富士吉田を皮切りに、山中湖畔や富士西湖畔などにグランピング施設を複数展開。2023年4月には箱根・熱海エリアに大自然の絶景が楽しめるラグジュアリーグランピング施設「THE GLAMPING 箱根十国峠」をオープンした。
ブームの追い風を受けて着実に成長を続けるピカだが、そのなかで直面する課題もあった。その一つが管理コストの増大だ。以前、同社のキャンプ場や飲食店、温浴施設、アミューズメント施設では、管理業務に紙の帳票が用いられており、業務効率化を阻害する要因になっていた。例えば、温浴施設のふじやま温泉で支配人を務める榊原勝氏は、紙の帳票にまつわる課題について以下のように説明する。
「当施設でも、温浴設備や厨房設備などで、紙の帳票を用いて衛生管理や設備点検を行なっていました。そのなかで特に負担になっていたのが紙の帳票の処理業務です。毎日の終業後などには、管理者が紙の帳票を回収し、Excelへの転記やファイリングなどを行なっていましたが、この業務負担は決して少なくありませんでした。また、紙の帳票はデータの二次利用にも向いておらず、例えば、以前、ボイラー設備を更新した際、新旧設備の性能を比較するために更新前後のガス使用量を集計・分析したのですが、この作業には多大な労力を要しました。そのほか、提携先のホテルに温泉の水質に関する情報を定期的に共有するなど、紙の帳票の情報を加工したり、転記したりする機会は多く、管理者の業務を圧迫する要因になっていました」
しかし、こうした業務上の課題を「課題だと感じていなかった」と、榊原氏は話す。長年、紙の帳票を利用するなかで、非効率な業務フローが固定化し、多くの従業員が業務の現状に疑問を抱いていなかったという。しかしその一方で、20ヶ所以上の施設を運営しているピカでは、各施設でふじやま温泉と同様の課題が発生しており、組織全体の生産性を低下させていた。ピカは本社スタッフなどが定期的に各施設を訪問し指導を行なっていたが、衛生や安全に関する意識は施設ごとにバラつきがあり、紙の帳票で管理業務の精度や効率を統制するのは困難だった。
こうしたなかで、ピカはカミナシの導入に至る。導入のきっかけは、同社の本社スタッフが訪れた展示会でのこと。「宿泊施設や飲食店に数多く導入されているのであれば、自社の課題も解決できるのではないか」と考えたのがきっかけだった。カミナシ導入を決めた経緯について、運営事業本部の三浦義郎氏は振り返る。
「カミナシは宿泊施設のインスペクションやHACCP対応によく利用されているようでしたが、これだけ機能が充実していれば温浴施設の管理にも十分応用できるだろうと考えました。当社では10年ほど前から積極的に施設を増やしており、管理コストの増大は今や経営に直結する問題となっています。管理業務を効率化し、衛生管理や設備管理をより適正な形に見直すためにも、カミナシのような業務効率化の手立ては必要不可欠でした」
こうしてカミナシの導入を決めたピカは、ふじやま温泉に加え、宿泊施設や温浴施設、アミューズメント施設などが併設されるPICA初島の2拠点で導入プロジェクトを開始。温浴施設の設備点検と厨房でのHACCP対応で紙の帳票の電子化に取り組んだ。
具体的には、紙の帳票をタブレット上のひな形に移行する形でプロジェクトは進められた。ピカの現場の従業員には、タブレットを利用したことがないメンバーも少なくない。そのため、導入後は入力時のエラーなど、壁にぶつかることもあった。
特に課題となったのが、環境の問題である。ピカの施設は山間部や湖畔など自然豊かなエリアに位置するため、施設内には通信環境が芳しくない場所も存在する。そのため、ピカではひな形をタブレット上にダウンロードして利用できるオフライン機能を活用し、通信環境の良好な場所でひな形をダウンロードするよう現場の従業員に指導することで、徐々にカミナシの利用定着を促していった。
また、各施設での導入を前に進めるために、カスタマーサポートも活用した。導入後、ピカはカミナシのカスタマーサポートチームと定期的なミーティングを実施。そのたびに運用上の疑問点や課題を解消し、システムの定着を進めた。その結果、導入から約3ヶ月後には、タブレット利用になれていない従業員のカミナシ利用定着が進んでいった。
現在、ピカはふじやま温泉とPICA初島の2拠点でカミナシを運用中だ。温浴施設の設備点検と厨房のHACCP対応はカミナシに完全移行し、従来の紙の帳票は電子化された。これによる帳票の削減効果も着実に表れており、ふじやま温泉だけでも1拠点につき約2000枚/年の紙の帳票が削減されている。
さらに、紙の帳票の削減により、管理者の処理業務も大幅に効率化した。従来、終業後などに行なっていたExcelへの転記やファイリングの作業は、カミナシの導入により不要になった。現在、管理者はタブレット上で設備点検やHACCPの記録状況をいつでも・どこでも確認できる。記録されたデータは自動的にレポートに変換されるため、データの分析や共有なども容易だ。従来のようにデータの二次利用に多大な手間を要することもなくなった。
また、作業の逸脱時や異常値が入力された際には、タブレット上にアラートが表示され、管理者にも通知が届くため、故障や事故にも即座に対応できる体制が築かれた。この変化について、榊原氏は大きな手応えを感じていると話す。
「故障や事故の厄介なところは『いつ起こるか分からない』という点です。当施設の設備は16年目に入ったこともあり、いつ故障してもおかしくない状況です。もし異常が発生すればすぐに対応しなければいけませんが、いつ起こるか分からないため、見過ごされてしまうリスクもあります。管理者が毎日のように点検結果を仔細に眺めて、設備の状況を細かく把握するのは現実的に難しいですし、すぐに設備などの異常に気付ける仕組み、習慣化が必要でした。その点、カミナシは、作業の逸脱や異常値を即座に報告してくれるため、故障や事故を見過ごすリスクを大幅に減らしてくれていると感じます。実際に、毎日の点検で異音があった場合に、すぐに共有できる仕組みになったことで、故障を防げています。日々の点検・修繕対応の迅速化は、安心して施設を運営できる要素となります。私自身も支配人として施設管理だけでなくスタッフの採用や教育、管理などさまざまな業務に日々追われているので、こうした仕組みは非常に有難いと感じています」
榊原氏はカミナシを「かゆいところに手が届く、まるで100円ショップのアイデア商品のようです」と評する。さまざまな機能を組み合わせることで、手軽に自社の課題を解決できることに、大きな利便性を感じているという。
そのほか、カミナシは、組織全体の衛生や安全の意識を底上げする役割も果たしている。従来、ピカは本社スタッフなどが各施設を訪問し、直接指導する形で管理業務の統制を図っていたが、これには多大な手間を費やしていた。しかし、現在はアラート機能やマニュアル機能を活用して、タブレット上で点検などの不備を指摘できるため、施設に訪問をすることなく管理業務を適正化できる。これにより、ピカは複数拠点の衛生管理や安全管理を同時に強化することができた。
ふじまや温泉とPICA初島での成功を足がかりに、今後、ピカはカミナシのさらなる導入範囲拡大を図る。カミナシ活用の展望について、三浦氏は次のように話す。
「今後、アウトドア事業を展開している10拠点にカミナシを展開する予定です。カミナシは、従来であれば支配人などの特定の役職でなければカバーできなかった業務を、アルバイトスタッフでも実施できるように転換してくれます。当社としても支配人などの役職者には、確認や承認といった定型業務ではなく、価値向上に資する非定型業務に集中してほしいので、それを実現できるカミナシにはとても期待しています。そのため、これからは温浴施設や厨房だけでなく、さらに広い範囲でカミナシを活用し、その導入効果を組織全体に波及させていきたいです」
拡大中の企業において、管理コストを減らすことや設備要因での営業休止のリスクを減らすことは、顧客の満足度を引き上げ、より成長を促す大きな要素となる。ピカのように温浴施設や厨房、アミューズメント施設など、多種類の設備を有する企業であれば、管理業務に多大な手間や時間が費やされてしまう可能性があるが、その壁を乗り越え、成長の勢いを止めないためには、管理業務を効率化する何らかの仕組みが求められる。そうした課題を抱える企業に対して、本事例は重要な示唆を与えるに違いない。
TEXT:島袋龍太
現場のこだわりポイント
「富士を世界に拓く」の通り、ふじやま温泉は富士山を臨む最高の立地で、周辺のレジャー施設や宿泊施設を利用する多様な来館者に癒しを提供している。来館者は老若男女問わず、また外国人の来館者も多いため、館内の案内や温泉の温度など、細かい気配りを徹底している。
※本内容は2023年11月現在のものになります。
※各サービスの仕様・デザイン等は改良のため予告なく一部変更することがあります。
※記載の会社名、各種名称等は、弊社および各社の商標または登録商標です。