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公開日 2026.05 .18

更新日 2026.05.18

【課題別】工場DXの成功事例10選。実際に現場で働く筆者が注目すべきポイントを解説

【課題別】工場DXの成功事例10選。実際に現場で働く筆者が注目すべきポイントを解説

「工場DXを進めたいが、自社に近い成功パターンが見つからない」「社内稟議を通すために、数字で語れる事例を探している」と感じている工場長や生産技術の担当者は少なくありません。

本記事では、経済産業省「DXセレクション」で評価された中小企業5社と、DX銘柄常連の大手2社の合計7社の工場DX事例を、テーマ別に紹介します。あわせて日本の工場DXの現状、DX化が進まない理由、成功のポイントまでを解説します。自社と似た企業の取り組みから、稟議用の資料に落とし込めるヒントが見つかります。

目次

工場におけるDXとは?

工場におけるDXとは、工場内で発生するデータをデジタル化し、IoTセンサーやAIで分析や自動化することで、生産現場の課題を解消する取り組みです。下記のような施策が具体例として挙げられます。

  • 紙の帳票をデジタル化し、それで得た情報を用いて、設備の稼働状況をリアルタイムで可視化する

  • 既存のデータを用いてAIの知能をアップデートし、不良品を自動検出を確度高く行う

DX化とIT化との違いは、現場の改善スピードや意思決定の質を底上げする点にあります。IT化は業務をデジタルに置き換えるだけで終わりますが、DXは集めたデータを分析して、生産性向上や新しいサービス創出につなげる活動です。

工場でのDX化であれば、設備の異常検知から保全計画の最適化、さらには受注から出荷までのリードタイム短縮まで、バリューチェーン全体を変革する動きが本質といえます。

具体的な例として、料理人の味見をデジタル化するイメージに近いです。これまで料理人の舌と勘で塩加減を調整していた作業を、塩分計と温度センサーで数値として記録できれば、新人でも同じ味を出せる上、レシピの改良にもつながります。工場DXも、熟練者の経験をデータに変え、誰でも再現できる形にしていく作業といえます。

日本の工場DXの現状

日本の工場DXは、世界と比べてまだ追いついていません。世界経済フォーラム(WEF)が第4次産業革命の技術を活用する先進工場に与える認定「Global Lighthouse Network(GLN)」の選定状況を見ると、現状がよくわかります。

2025年9月時点でGLNに選ばれた拠点は全世界で201拠点あります。対して日本国内の認定は、2020年の日立製作所 大みか事業所やGEヘルスケア・ジャパン 日野工場、2022年のP&G 高崎工場の3拠点にとどまっています。しかも、2022年のP&G高崎工場の認定以降、日本からの新規認定は出ていません。

世界の潮流がスマートファクトリーへと加速するなかで、日本の工場は取り残されつつあります。背景には、個別工場単位での改善には強い一方、サプライチェーン全体や複数拠点をまたぐデータ連携が弱いという構造的な課題があります。

1つの工場の最適化で満足せず、会社全体やサプライチェーン全体を見据えたDX設計が必要な段階に入っています。

参考:Global Lighthouse Network 2025年9月プレスリリース | 世界経済フォーラム

【テーマ別】工場DXの成功事例

今回紹介する工場DXの成功事例は、「情報の見える化」「AIやIoTの活用」「人材育成」「生産活動の効率化」「業務の自動化」といったテーマで整理しました。

本章では、経済産業省「DXセレクション2024」で評価された中小企業5社と、DX銘柄常連の大手2社(JFEスチールと村田製作所)の合計7社を、テーマ別に紹介します。

中小企業と大手では、投資できるリソースも動員できる人材も違います。ただし自社の工場にどう落とし込むかを考えるうえで、業種や規模の近い事例だけに絞るのは学びの機会を狭めてしまいます。

大手の先進事例には目指す将来像のヒントが、中小の事例には今日から始められる一歩目のヒントが詰まっています。

各社の詳細に入る前に、7社のDX内容と主な効果を一覧にしました。自社に近いテーマや、社内稟議で使えそうな数字は、冒頭の一覧表で先に把握できます。

会社名

DX内容

主な効果・改善内容

旭工業株式会社

生産管理システム刷新による情報の見える化

業務時間を2024年に約8,806時間削減、QCDが向上

株式会社トーシンパートナーズホールディングス

AI(DataRobot)による適正賃料生成モデルや自社開発アプリ

年間約8,800時間の工数削減、空室期間を短縮

山口産業株式会社

メタバース活用の営業設計支援やDX人材育成プログラム

若手への技能継承が進展、DXセレクション2024準グランプリ受賞

株式会社リノメタル

SlackやAWSを含むクラウドサービス28個を5年で導入

生産管理の残業80%減、月332時間削減、売上12.7億円増

株式会社ASAHI Accounting Robot研究所

Power Platformによる業務自動化とRPAリスキリング

1ロボットあたり年間660時間削減、日本DX大賞2025大賞受賞

JFEスチール株式会社

高炉CPSによる炉内可視化と統合基盤J-DNexusの運用

12時間先の溶銑温度を約80%精度で予測、燃料5%削減

株式会社村田製作所

無線振動センサによる予知保全とAIによるMLCC積層最適化

保全時間を月90時間削減、設備投資を2年で800万円抑制

情報の見える化:旭工業株式会社

  • 業界:製造(精密板金やプレス加工)

  • 従業員数:約65名(3拠点合計)

事業内容:液晶や半導体製造装置、電力インフラ、医療機器向けの精密板金筐体、フレーム、プレス部品の製作東京都荒川区に本社を置く旭工業株式会社は、半導体製造装置や医療機器向けの精密板金を手がけるメーカーです。旭工業が抱えていた課題は、生産現場の情報がブラックボックス化し、作業が属人化している点でした。

業務量や成果が数字で見えないため、誰が何をすれば改善につながるかも判断できず、QCD(品質・コスト・納期)の打ち手が打てない状態が続いていました。

筆者が働く製造業の現場でも、紙帳票の運用には似た悩みを抱えていました。日報や設備点検票、品質記録などを合わせると、1日あたり50枚近い紙が現場で回覧されます。

月末になると帳票のファイリングと転記作業だけで20時間ほど吸い取られ「あのとき誰が何をやったか」を後追いするのに半日かかるケースも珍しくありません。見える化が進まないかぎり、改善の議論は感覚論で終わってしまいます。

旭工業は生産管理システムと社内ソフトを全面的に刷新し、誰が見てもわかることを軸に情報の定量化を進めました。

2023年12月には経済産業省の「DX認定」を取得し、新規顧客サービス創出や業務DX、人材育成の3軸でDX推進ビジョンを策定しています。

結果として、業務時間を2023年に約7,868時間、2024年には約8,806時間削減し、QCDの改善で取引先からの評価も向上しました。従業員自身の成長が数字で見えるようになり、モチベーション面の副次効果も得られた実績として、2024年3月のDXセレクション2024を受賞しています。

参考:品質管理・環境対応・SDGs・DX認定 | 旭工業株式会社DXセレクション | 経済産業省

AIやIoTの活用:株式会社トーシンパートナーズホールディングス

  • 業界:不動産業

  • 従業員数:グループ全体 約372名(2024年4月時点)

  • 事業内容:投資用マンション「フェニックス」や「ZOOM」などの企画開発、販売、賃貸管理

東京都武蔵野市の株式会社トーシンパートナーズホールディングスは、不動産業でAIやIoTを駆使したDXを推進する異色の事例です。工場ではなく不動産業の事例ですが、AIで属人判断を置き換える発想は、工場の品質管理や生産計画にもそのまま応用できるため、ヒントとして引く価値があります。

トーシンパートナーズが抱えていた課題は、空室期間の長期化による機会損失と、賃料設定や営業判断が担当者の経験と勘に依存していた点でした。全社的なDX人材の不足も重なり、データドリブンな判断が難しい状況が続いていました。

工場の現場でも似た構図をよく目にします。筆者が従事する工場でも、新製品の生産計画立案はベテラン技術者の頭の中にノウハウが集中していた時期がありました。

初稿の生産計画を組むのに1件あたり8時間、修正と調整の会議に週合計5時間を費やし、計画立案の属人化が残業時間を押し上げていました。経験と勘の判断を、データで裏づけられる形に変える意義は、業種を問わず大きいといえます。

トーシンパートナーズは2021年11月にDX推進組織を設置し、機械学習プラットフォーム「DataRobot」を活用して物件情報と賃貸条件から成約日数を予測する適正賃料生成モデルを構築しました。

子会社と連携してオーナー専用アプリ「LENZ」も内製開発しています。結果として年間約8,800時間の工数削減と空室期間の短縮を達成し、2024年のDXセレクションで不動産業界として初の準グランプリを受賞しました。

参考:トーシンパートナーズHD プレスリリース | PR TIMES
参考:DataRobot導入事例 | 日鉄ソリューションズ

人材育成:山口産業株式会社

  • 業界:製造業や建設業(膜構造建築物メーカー)

  • 従業員数:148名(2025年3月時点)

  • 事業内容:産業用テント倉庫、膜構造スポーツ施設、膜屋根シェルター、畜舎、グランピング施設などの設計や製造、施工を一貫対応

佐賀県多久市の山口産業株式会社は、産業用テントや膜構造建築物を自社一貫で手がけるメーカーです。膜構造建築はオーダーメイド性が高く、完成イメージを顧客と共有するのが難しいという業務特性があります。あわせて、ベテラン職人の経験と技術の属人化、若手への技能継承、サステナビリティ対応という複数の課題を同時に抱えていました。

私の工場でも、新人教育の工数は毎年悩みの種になっています。OJTで中堅技術者を3ヶ月張りつけると、教える側の中堅の生産性は半分近くに落ち、工場全体の残業時間が月20時間ほど増える実態があります。

教える側のノウハウが属人化していると、教える内容がバラつき、「前の先輩と違うことを言われた」という声も新人から挙がります。人材育成とDXを切り離して考えると、現場の負担は延々と続いてしまいます。

山口産業は佐賀県産業スマート化センターの伴走支援を受け、デジタル武装された経験と技術による課題解決型のモノづくりを旗印に掲げました。

メタバース空間を使った営業設計支援を導入し、顧客が仮想空間上で完成イメージを体感できる仕組みを構築しています。社内ではDX人材育成プログラムを体系化し、中小企業版SBT認証も取得しました。2024年のDXセレクションでは、佐賀県内企業として初の準グランプリを受賞し、研究開発拠点「MEMBRANE LAB.」も設立しています。

参考:山口産業 DXセレクション受賞ページ | 山口産業株式会社
参考:佐賀県産業スマート化センター

生産活動の効率化:株式会社リノメタル

  • 業界:製造(金属プレス加工業)

  • 従業員数:約91〜101名

  • 事業内容:自動車部品のプレス加工や熱処理加工。日本の全自動車メーカーと独系4社を含む世界17社向けに月間約800万個を製造

埼玉県八潮市の株式会社リノメタルは、自動車部品のプレス加工を月間約800万個手がける中堅メーカーです。月間300〜400件発生する調達業務が紙やFAX、Excelでの手作業中心で、情報共有もメールや口頭に頼るため属人化が進み、生産管理のミスや残業の常態化が深刻な課題でした。経験と勘への過度な依存から脱却する必要に迫られていました。

筆者が所属する工場でも、生産計画の属人化は似た形で残業を押し上げていました。生産管理担当者の手元Excelで日々の計画を更新するため、担当が不在だと誰も次の工程を判断できず、夜間の設備停止や週末の休日出勤を招いていた時期があります。

月間で生産管理課全体の残業が合計120時間を超えていた年もあり、属人化の解消は経営課題そのものでした。

そこで、リノメタルは5年間でSlackやAWSを含むクラウドサービス28個を段階的に導入しました。調達業務では大塚商会のクラウド型購買支援「たのめーるプラス」と「MAたのめーる」を2020年10月に本稼働させ、準備期間はわずか3ヶ月です。

サプライヤーとの接続性を維持するためにFAX送信オプションも活用しています。人事労務領域ではSmartHRを導入し、タレントマネジメントまで連動させました。結果として、生産管理業務のミスや対応工数を月間358件、月間332時間削減しています。

生産管理課の残業時間は80%減、月1〜2日発生していた休日出勤は0日になりました。経営面でも年間売上12.7億円増、全国クラウド実践大賞2023関東・信越大会最優秀賞、DXセレクション2024準グランプリを受賞しています。

参考:リノメタル導入事例 | 大塚商会SmartHR 導入事例

業務の自動化:株式会社ASAHI Accounting Robot研究所

  • 業界:情報サービス業

  • 従業員数:ASAHIグループ全体で172名(2025年7月時点)

  • 事業内容:Microsoft Power Platform(Power Automate for desktopやPower Apps)を活用した業務自動化ソリューションの開発、導入支援、非IT人材向けリスキリング研修

山形県山形市に本社を構える株式会社ASAHI Accounting Robot研究所は、税理士法人あさひ会計から派生したRPA専業企業です。中小企業のIT人材不足、バックオフィス業務の手作業依存、外注依存でDXがブラックボックス化する構造問題に着目し、非IT人材が自分で作って運用することを軸にサービスを展開しています。工場での業務自動化を検討する際のベンチマークとして、考え方が参考になる事例です。

ASAHIは2018年にあさひ会計グループ内でRPAを導入し、1年間で数千時間の効率化を体感したことを契機に、2019年1月に事業法人化しました。現在は主力と年1回稼働を合わせて333体のロボットが常時稼働しています。

代表的な導入成果として、国税庁メッセージボックスの未開封メッセージ取得を自動化したロボットで年間660時間削減(1件あたり5分×2,000件)を実現しました。

Power Platformを軸にした業務自動化だけでなく、非IT人材のリスキリングにも力を入れています。全国26都道府県124社、598名に研修を実施し、累計約1,000名への勉強会や205社への継続開発支援を提供してきました。

2024年3月にDXセレクション2024の優良事例に選ばれ、DX認定事業者の認定も更新済みです。2025年には日本DX大賞2025の支援部門で大賞を受賞しています。工場の経理や調達、検査記録などバックオフィス領域の自動化に悩む担当者にとって、参考になる取り組みです。

参考:公式DX取組ページ | ASAHI Accounting Robot研究所日本DX大賞2025 支援部門大賞 | ASAHI Accounting Robot研究所

高炉の内部状態の可視化:JFEスチール株式会社

  • 業界:鉄鋼業

  • 従業員数:連結43,081名(2024年3月時点)

  • 事業内容:厚板や薄板、表面処理鋼板、電磁鋼板、形鋼、鋼管などの鉄鋼製品の製造販売。国内粗鋼生産量第2位、世界第12位規模

JFEスチール株式会社は、国内粗鋼シェア約28%を占める鉄鋼大手です。高炉は内部温度が1,500〜1,800℃、高さ50mに達する見えないブラックボックスで、炉内の化学反応や伝熱現象は直接計測できません。

結果として操業は熟練オペレーターの経験と勘に依存し、炉内異常が起きれば数千億円規模の損失、最悪の場合は炉が再起不能になるリスクを抱えていました。ベテラン技術者の高齢化と技能伝承、カーボンニュートラル対応も並行して重い課題でした。

JFEスチールは高炉CPS(サイバーフィジカルシステム)プロジェクトを立ち上げ、炉内の化学反応や伝熱現象を再現する数理物理モデルと、自社開発AIのハイブリッドで高炉を可視化しました。

高炉1基あたり約1万点以上のセンサー(温度や圧力、振動、水分、風量、ガス流量)と炉内映像を統合し、2019年11月に千葉や京浜、倉敷、福山の国内全8高炉への展開を完了しています。2024年9月にはIT系(生産実績や品質)とOT系(センサーや操業)データをクラウドで統合するCPS開発実行プラットフォーム「J-DNexus」をMicrosoft Azure上で運用開始しました。

導入効果は具体的な数値で語れます。最大12時間先の溶鋼温度を約80%精度で予測でき、炉内圧力の統計解析による異常予兆の早期検知と警報配信も実現しました。

福山第4高炉の再稼働期間は従来6ヶ月以上から約2ヶ月(約3分の1)に短縮しています。西日本製鉄所のコークス炉デジタルツインでは燃料使用量5%削減、CO2排出量は年間6,600トン削減しました。第70回大河内記念技術賞を受賞し、経産省「DX銘柄」には9回選定されているなど、外部評価も高い企業です。

参考:JFE DX REPORT 2025 | JFEホールディングス大河内記念技術賞 受賞リリース | JFEスチール

製造ラインの予知保全:株式会社村田製作所

  • 業界:製造(電子部品メーカー)

  • 従業員数:連結73,165名/単体10,401名(2024年3月時点)

  • 事業内容:セラミックスをベースとした電子部品の開発、生産、販売。積層セラミックコンデンサ(MLCC)で世界シェア約35%、世界1位

株式会社村田製作所は、MLCCで世界シェア35%を握る電子部品大手です。世界市場での地位を維持するには、中韓勢の完全無人工場との競争に勝ち抜く必要があり、熟練技術者の経験と勘に依存する領域の自動化と、回転設備の突発故障を防ぐ保全体制の強化が急務でした。クリーンルーム運用では突発停止が致命傷になります。

筆者の現場でも、設備の突発故障への対応時間は大きな経営課題でした。設備50台の保全を4名で担う現場で、1台の予期せぬ故障の対応に平均4時間、年間にすると復旧対応だけで1人あたり400時間を超えていました。予防保全の定期交換でも、実際はまだ使える部品を捨てているケースが多く、投資額の無駄も放置されていました。予知保全の導入可否は、現場の人件費と設備投資の両方を左右する判断軸になります。

村田製作所は予知保全の中核技術として、電池駆動で電源工事や巡回点検が不要な無線振動センサユニットを投入しました。2024年6月には5.0×5.0×3.5mmサイズで温度センサー内蔵、最大11kHzまでの高周波振動加速度を測定可能なSMD型振動センサデバイス「PKGM-200D-R」の量産も開始しています。

FFT解析で回転ベアリングのグリス切れや微小キズを検知し、設備予兆保全を実現しました。MLCC製造ではAIが微細積層枚数の最適化を担い、50年以上蓄積した世界No.1の質と量のMLCC製造データを学習に活用しています。

導入効果として、クリーンルーム空調設備の予知保全で2年間に設備投資額 約800万円を抑制し、圧力計の定期監視自動化で保全時間を月90時間削減しました。消費電力可視化では電力コスト約45万円/年、CO2排出量15.4トン/年を削減しています。村田の調査では、スマートファクトリーを推進する企業の86.0%が「成果を実感」と回答しました。

参考:DXカテゴリ記事 | 村田製作所無線振動センサによる予知保全 | 村田製作所

工場DXがなかなか進まない理由

成功事例を見ていると光の面が目立ちますが、現場で工場DXに踏み切れない企業も少なくありません。日本の工場DXが世界のスマートファクトリー化に遅れつつある背景には、共通する3つの理由があります。IT人材の不足、高額な初期投資、組織文化の壁です。順に見ていきます。

DX化を推進できるIT人材が不足している

工場DXの最大のボトルネックは、推進を担えるIT人材やデータサイエンティストの不足です。

IPA「DX動向2024」によれば、DXを推進する人材の量について「大幅に不足している」と回答した企業は2023年度で62.1%に達し、調査開始以来初めて過半数を超えました。経年で見ると2021年度30.6%から2022年度49.6%、2023年度62.1%と、3年で倍増する勢いで悪化しています。

中小企業の側でも状況は厳しい傾向が続いています。中小機構「中小企業のDX推進に関する調査(2024年)」では、DX推進上の課題トップ2が「ITに関わる人材が足りない」25.4%、「DX推進に関わる人材が足りない」24.8%と、人材不足が上位を独占しました。工場DXを内製で進めるか、外部と連携して進めるかを含め、人材戦略とセットで設計する視点が欠かせません。

参考:DX動向2024 | IPA
参考:中小企業のDX推進に関する調査(2024年) | 中小機構

初期投資が高額になりやすく予算確保が難しい

IoT機器やAIシステムの初期投資は、数千万円規模に膨らむケースも珍しくありません。しかも短期で投資回収額が見えにくく、効果が現れるまでに1〜2年の時間差があるため、経営層の判断が慎重になりやすい構造です。

中小企業の場合はさらに厳しい状況です。日々の生産や受注業務を回すことが最優先となり、DX専用の予算枠を確保するのが難しいのが実態です。

クラウドサービスやライセンス費用といったランニングコストも毎月発生するため、導入しておしまいにならない点も予算担当者にとってハードルになります。稟議を通す段階で、投資回収シナリオとあわせて「まずは1ラインの小規模導入で効果実証する」というスモールスタート設計を示せるかが分岐点になります。

変化を嫌う組織文化が根強い

IT人材と予算が揃っても、最後に立ちはだかるのは組織文化の壁です。経営層に「DXは流行り言葉」「自社には関係ない」という認識不足が残っていると、現場が挑戦する空気が生まれません。現場側にも「今までのやり方で十分」「余計なシステムは仕事を増やすだけ」という抵抗が根強く、両者の間で議論が止まるケースが頻発します。

変化を嫌う文化は、過去に成功してきた企業ほど厚く積み上がっている傾向があります。「紙とホワイトボードで何十年も回してきたのだから、このままでいい」という発言を現場で耳にする機会は多いのが実情です。

経営と現場の双方を動かすには、小さな成功体験を短期間で積み重ね、「デジタル化したらこれだけ楽になった」という体感を共有することが欠かせません。

工場DXによって得られるメリット

工場DXを進めると、生産性の向上、ダウンタイムとコストの削減、不良率の低下と品質向上という3つのメリットが得られます。いずれも経営指標と直結するため、稟議書での効果説明にも使いやすい定番のベネフィットです。

生産性向上につながる

工場DXの代表的な効果は生産性の向上です。リアルタイムでデータを収集する仕組みを入れると、設備の稼働状況が可視化され、どの工程がボトルネックになっているかが数字で見えます。ボトルネックを解消することで、設備稼働率が上昇し、同じ人員と設備でより多くの生産量を出せるようになります。

自動化システムを導入すれば、24時間稼働や作業時間の短縮も実現できます。人手不足のなかで生産量を維持拡大する手段としても、工場DXは有効な打ち手です。

さらに、属人化していた作業をデジタル化すれば、担当者の休暇や退職のたびに業務が止まるリスクも下がります。結果として、会社全体の生産性は個人の能力ではなく仕組みの能力で決まるようになります。

ダウンタイムやメンテナンスコストを削減できる

IoTセンサーとAIによる予知保全を導入すると、設備の故障予兆を早期に検知できます。従来の定期保全ではまだ使える部品を交換していた無駄が避けられるうえ、突発故障による生産ライン停止も大幅に減らせます。結果として、ダウンタイムとメンテナンスコストの両方が削減されます。

村田製作所の事例では、クリーンルーム空調設備の予知保全で2年間に約800万円の設備投資を抑制し、圧力計の定期監視自動化で月90時間の保全時間を削減しました。現場の保全担当者が点検作業から解放された時間を、改善活動や新技術習得に振り向けられる点も、数字に見えにくい副次効果です。

不良率が低下して品質が向上する

AIによる異常検知とリアルタイム品質管理を組み合わせると、不良品を工程内で検出し、手直しや廃棄のロスを減らせます。熟練検査員の目視に依存していた品質判定をAIが担えば、検査員によるばらつきもなくなり、品質の安定度が底上げされます。

市場変化への対応スピードも上がります。顧客からのクレームや市場不具合の情報をデジタルで即座に集約し、製造ラインのパラメータ調整に反映すれば、同じ問題の再発を防げます。品質は検査で守るからデータで作り込むへと変わり、クレーム対応コストと機会損失の両方を削減できます。

工場DXを成功させるために必要な5つのポイント

経済産業省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」では、DX推進の成功ポイントとして7項目が示されています。本記事では、7項目のうち工場DXに特に影響が大きい5つを抜粋して解説します。いずれも成功事例7社に共通して見られた要素で、社内稟議を通すうえでも軸となる考え方です。

1.経営層や現場を巻き込む

工場DXを失敗に終わらせない第一歩は、経営層と現場の両方を巻き込むことです。DX推進部が勝手にやっている状態のまま進むと、現場からの抵抗で形骸化し、経営層からは投資対効果が見えず予算が止まる悪循環に陥ります。

巻き込み方として効果的なのは、抽象的なDX推進ではなく、不良率◯%削減やリードタイム◯日短縮といった経営指標に変換して語ることです。

現場側が日々困っている業務、たとえば紙記録や目視検査、段取り替えといった具体的なテーマからDXを始めると、自分たちの負担が減るという実感を得やすく、協力を引き出しやすくなります。

2.中長期的な視点で取り組む

工場DXは、システムを1つ導入して終わりになる取り組みではありません。3〜5年スパンで工場と組織そのものを変えていく設計が求められます。IoTセンサーを入れてデータを集めるだけでは改善は起きず、データを使って意思決定を変え、仕組みを更新し続けるサイクルの構築が欠かせません。

実務では、短期(1年以内)、中期(3年以内)、長期(5年以内)の3段階で目標を設定する形が有効です。短期で目に見える成果を出して社内の信頼を積み上げ、中期でライン単位の最適化、長期で工場間やサプライチェーン間のデータ連携へと広げていく流れが、失敗の少ない進め方です。

3.スモールスタートで成功体験を積み重ねる

工場DXを成功させるには、1ラインや1工程など限定範囲でスモールスタートを切り、早期に成果を出すことが重要です。全工場一斉での大規模導入は失敗した場合の損失が大きく、社内の支持も失いやすい進め方になります。小さく始めて効果を実証し、そのうえで横展開していくのが定石です。

現場が体感しやすい効果を狙うのも成功のコツです。「残業が月◯時間減った」「写真整理が楽になった」「紙帳票を探す時間がなくなった」といった目に見える変化を短期間で示せれば、次のDX施策への協力を得やすくなります。稟議書でも「◯ヶ月で◯時間削減を実証済み」という事実は、投資判断の後押しになります。

4.専門家と連携しデジタル人材を育成する

多くの製造業、とくに中小企業では、DX専任人材やデータ分析の高度スキルを持つ人が社内に不足しています。最新技術の調査から要件定義、データ設計まで社内だけで完結させるのは現実的ではありません。外部の専門家やベンダーと連携しつつ、自社のデジタル人材を育てていく両輪が必要になります。

効果的な進め方は、単発の導入支援で終わらせず、要件定義や設計、データ分析の場に社内メンバーを同席させ、共同で進める形を取ることです。外部のノウハウを現場で吸収し、次のプロジェクトでは内製比率を上げる。積み重ねが、3年後や5年後に効いてくる企業体力の差になります。

5.継続的に取り組みを拡大していく

工場DXは、施策を打ったあとの運用で価値が決まります。施策ごとに目的や指標、期間を決め、導入後は定期的に指標を確認し、改善点を洗い出し、改修するPDCAサイクルを回し続けることが不可欠です。

拡大の順番にも勘所があります。成果が出たテーマをそのまま全社一斉で展開するのではなく、効果が大きい工場やライン、人材が揃っている拠点から順に広げると失敗しにくい進め方になります。

1つの工場での成功パターンを、そのまま別の工場に適用しても文化や設備の違いから機能しないケースが多いため、展開先ごとに調整を挟みながら拡大させていくのが現実的な進め方です。

自社に近い事例を見つけて工場DXを進めよう!

本記事では、工場DXの基礎知識から、中小5社と大手2社のテーマ別成功事例、進まない理由、メリット、成功の5つのポイントまでを解説しました。DXは全社一斉で進める必要はなく、自社の課題に近い事例を見つけて1ラインの改善から踏み出せる取り組みです。

次の行動として効果的なのは、工場内で改善したい課題を1つ洗い出し、現状で集められるデータを整理するところから始める進め方です。そのうえで、7社のなかから自社と業種や規模が近い事例を選び、稟議用の資料に落とし込むと話が進みやすくなります。現場メンバーとDX推進チームを作り、データを見て改善を試す小さな成功体験を積み上げれば、3年後の工場はまったく違う姿になっているはずです。

DX化を進めた他社事例や進め方、それらの企業が使用していたツールをまとめた資料は以下からダウンロード可能です。ぜひご覧ください。

https://kaminashi.jp/inquiry

執筆者:むつごろー

自動車メーカーの製造に勤務し、一次情報を基にした記事執筆をおこなう。機械製造以外にも食品製造への知見もあり、現場改善や品質管理における記事の執筆も担当している。

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