2026年4月22日、株式会社カミナシは報道関係者向けに「育成就労制度 外国人就労の最新動向と企業の生存戦略 勉強会」を開催しました。
2027年4月1日より施行される「育成就労制度」への完全移行を1年後に控え、外国人材を取り巻く受け入れ環境は激変しようとしています。
勉強会では、制度の法的ポイント、採用市場の変化、そして受け入れ現場の課題という3つの視点から、各分野の専門家が解説を行いました。本記事では、その解説内容を詳細にレポートします。
第1部:技能実習から「育成就労」へ。制度改革の背景と「転籍」の全貌
登壇者:杉田 昌平 氏(弁護士法人 Global HR Strategy 代表社員弁護士)

まず第1部で、外国人雇用法務をワンストップで提供する弁護士法人 Global HR Strategy 代表社員弁護士の杉田 昌平氏(経産省・厚労省・JICA等の委員を歴任、著書10冊以上)より、育成就労制度への移行による変更点を中心に解説がなされました。
技能実習制度が育成就労制度に変わっても"変わらないこと"とは
約30年間続いた技能実習制度は、その目的を「国際貢献」と「人材育成」に置いていました。これに対し、新設される育成就労制度では「人材育成」に加えて、人手不足対策である「人材確保」が正面から制度目的に位置付けられます。
ただし、新制度は無制限な受け入れではなく、3年間の育成期間を経て最終的に「特定技能1号」レベルの専門人材へと育成することが大前提となります。
これは、日本の外国人労働者受け入れ政策が、長年「専門的・技術的分野の労働者は積極的に受け入れる一方、単純労働者の受け入れには慎重である」という基本方針を維持しているためです。
したがって、育成就労で従事できる職種は、特定技能の受け入れ対象分野(計19分野)に合わせられることになります。

出典:育成就労産業分野・特定産業分野(杉田氏 登壇資料)
新制度で必須となる「日本語能力の習得」
育成就労制度においては、長期的な人材確保と定着を前提とするため、社会統合の観点から段階的な日本語能力の習得が必須となります。
具体的には、就労開始前にはA1相当(N5レベル)の講習受講から始まり、1年経過時や本人の意向による転籍時にはA2.1(N4.5相当)の合格、そして育成就労修了時にはA2.2(N4相当)へと、段階的に能力を高めていく仕組みが導入されました。

出典:育成就労で必要とされる日本語レベル(分野別)(杉田氏 登壇資料)
最大の焦点「転籍」の仕組みを徹底解剖
育成就労制度では、技能実習制度では原則として認められていなかった「転籍(雇用主の変更)」が条件付きで可能になります。転籍には大きく分けて2つのパターンが存在します。
やむを得ない事情による転籍:人権侵害や法令違反などがあった場合、合計3年以内で同一分野内での転籍が可能です。このケースでは特段の厳しい条件は設けられていません。
本人の意向による転籍(自己都合):育成就労制度から新たに認められる自己都合での転籍ですが、無条件にできるわけではなく、以下の「4つの厳しい要件」をすべて満たす必要があります。
本人の意向による転籍に必要な4つの条件
就労期間:同一の企業で1〜2年働くこと(農業や宿泊等は1年、介護や建設、製造などは2年など、分野により期間が異なります)。
能力要件:技能検定の基礎級以上の合格と、日本語能力A2.1(N4.5相当)以上の取得が必要です。
転籍先の要件:転籍先は「優良な企業」に限定され、受け入れ人数の上限枠も設定されます。
移籍金(分担金)の支払い:転籍先の企業は、それまで人材を育成してきた転籍元の企業に対して、育成費用を補填するための金銭を支払う仕組みが導入されます。
育成就労制度の基礎構造は技能実習制度を引き継ぐものの、上物を大きくリフォームしたような制度であり、採用経路の透明化なども含めて受け入れ企業に求められるハードルは高くなっています。
第2部:新制度施行で外国人材マーケットはどう変わるのか?
登壇者:青木 千秋 氏(株式会社グローバルトラストネットワークス 執行役員)

第2部では、外国人の住まい・就労・生活支援サービスを展開する株式会社グローバルトラストネットワークスの青木 千秋氏より、外国人材マーケットの最新動向について解説がなされました。
「とりあえず雇う」時代の終焉
労働力不足が深刻化する一方で、特定技能1号の外食業などでは受け入れ上限に達し、海外からの新規受付が停止される事態が起きています。
青木氏は「無制限に外国人を受け入れられるわけではなく、『数』から『スキルマッチ・定着』へとシフトしている」と警鐘を鳴らしました。
さらに、在留資格の更新や変更の手数料が、現状の上限1万円から技人国(技術・人文知識・国際業務)では大幅な引き上げの可能性も議論されており、外国人採用は人手不足を補う存在から、明確な費用対効果が求められる「投資」へと大きく変わっていくと予測しています。
マーケットの「大統合」と「細分化」
今後の外国人材マーケットは、大きく二極化すると青木氏は語ります。
大統合(技人国):専門的な技術・人文知識・国際業務においては、日本語能力N2が事実上必須化されます。
これにより、外国人材は日本人求職者と同じプラットフォーム(Indeedやビズリーチなど)でスキルを競うようになり、「外国人」という国籍の概念が薄れ、日本の一般労働市場に「統合」されていきます。

出典:在留資格が分ける2つのマーケット(技人国)(青木氏 登壇資料)
細分化(特定技能):特定技能は現場技能職として19分野へと拡大し、職人的なスペシャリスト人材の独自のマーケットとして「細分化・専門市場化」していきます。
すでに現場では、特定技能2号の人材が新しく入ってきた1号の人材をマネジメントするといったキャリアパスも形成されつつあります。

出典:在留資格が分ける2つのマーケット(特定技能)(青木氏 登壇資料)
「選ばれる企業」になるための鍵
外国人材の間では、SNSやコミュニティを通じて、企業の求人票や給与、残業時間、寮やWi-Fiの有無などの情報が共有されるケースも増えています。
他社の情報にアクセスしやすくなっている中、今後、育成就労制度において一定条件下で転籍が可能になることで、外国人材の定着に向けた企業側の取り組みは、これまで以上に重要になると考えています。
また、そのような環境下では、従来の「誰か良い人はいないか」と送り出し機関の紹介に頼る形の手法は限界を迎え、企業自らが直接アプローチし、教育や評価、キャリア形成に関与する“ダイレクト採用”が主流になっていくことが予測されます。
特に地方や中小企業においては、都心の大企業と給与水準だけで競うのではなく、「ゆとりのある住環境」や「地域とのつながり」といった安心感を強みにできる余地があります。採用だけでなく、住居手配・ライフラインの手続きなどの生活立ち上げ支援、日常生活に関する相談対応なども含め、外国人材が安心して働き暮らせる環境を整備していくことが、定着の鍵となります。
第3部:育成就労制度で深まる「受け入れ現場の課題」とは
登壇者:細見 優太 氏(株式会社カミナシ プロダクトマーケティングマネージャー)

第3部では、製造業やサービス業など外国人材が多く働く現場の課題を解消するITサービスを開発・提供する株式会社カミナシ 細見 優太氏より、育成就労制度で深まる「受け入れ現場の課題」とその乗り越え方について、解説がなされました。
進む現場の多国籍化と、見えにくい「日本語力」の壁
受け入れ現場の最前線では、特定技能外国人の国籍比率に変化が起きています。これまで多数を占めていたベトナム人材のシェアが低下し、インドネシアやミャンマーの人材が急増することで、1つの現場に複数言語が飛び交う「多国籍化」が加速しています。
また、特定技能外国人に対して「一定の日本語力があるはず」と期待する現場が多いものの、実際の日本語レベルには大きなばらつきがあるとのこと。
株式会社カミナシの調査によると、「分かっていないのに『はい』と返事をしてしまった」経験がある外国籍従業員は45.6%に上ります。その最大の理由は「日本語でうまく伝えられず諦めている」からという結果でした。

出典:技能実習生・特定技能外国人の「日本での就労意識・就労環境」(株式会社カミナシ)
現場で起こるトラブル事例
細見氏は、支援している現場で実際に起こっているリアルなトラブル事例を紹介しました。
日本の「暗黙知」が通じない:日本人は「丁寧に」「綺麗に」といった言葉で共通認識を持てますが、海外は「マニュアルに書いてあることだけをやる」傾向が強いです。
例えば実際に、病院清掃の現場で「テレビの上が拭かれていない」というクレームが発生した際、マニュアルに明文化されていなかったため、悪気なく作業が省略されていた」という事例もあったとのことです。
ジェスチャー指導の限界:現場の約6割が、身振り手振りのOJTで指導しています。「一旦見て覚えて」という指導では、従業員が本当に理解しているか確認する術がなく、クレームや手戻りが発生して初めてミスに気づくケースが後を絶ちません。
連絡手段の乱立と管理者の疲弊:従業員が国籍ごとに異なるSNS(MessengerやWeChatなど)を好んで使うため、日本人の管理者は各言語への翻訳と各アプリへのコピペ作業を繰り返し、業務連絡だけで毎日1時間以上を費やす場合もあります。
想定外のSOS対応:「同居人が鍵を持ったまま外出して締め出された」「海岸のワカメを拾って食べていいか」など、文化の違いによる生活上のトラブル対応に現場管理者が追われています。
育成就労制度への移行で、現場が取り組むべきこととは?
現場では「言語の壁」や文化の違いによるトラブルは発生しているものの、やはり外国人材がいないと現場が立ち行かなくなってしまうため、今現在もそれらを解消し定着してもらうための支援が重要です。しかし、育成就労制度で転籍が可能となることで、従来以上に定着のための取り組みの重要性が高まります。具体的に定着率を高めるための手段として、「仕組み」と「仕掛け」の両輪が不可欠です。
仕組み:バラバラな連絡手段を一つに統合し、「緊急な事故報告は即時」「業務マニュアル更新は月1回」など、情報アクセスの環境とルールを明確に整備します。
仕掛け:重要な安全ルールや給与・シフトといった情報は必ず「母国語」で伝え、チャットツール等を用いて既読・未読を管理し、情報の「見逃し」を防ぎます。

出典:より持続可能な外国人材活用の実現に向けて重要な取り組み(細見氏 登壇資料)
また、実際に「仕組み」と「仕掛け」の両輪を実現している企業事例として、東急ビルメンテナンス株式会社の取り組みが紹介されました。
東急ビルメンテナンスでは、多言語対応の社内コミュニケーションツール(カミナシ)を導入したことで、日本人と外国人が母国語で直接やりとりできる環境を構築しています。
また、会社から従業員に一斉に業務連絡を行える「お知らせ機能」を活用しFAQを全体共有した結果、外国人従業員からの個別問い合わせが4分の1に激減し、管理者が本来の定着支援に注力できるようになりました。

東急ビルメンテナンスで清掃業務に従事する外国人従業員が、バックヤードにてカミナシの提供する多言語対応の社内コミュニケーションツールで周知事項を確認している様子
まとめ
育成就労制度への移行は、単なる名称の変更ではなく、外国人材を労働力として「消費」する時代から、企業を支える資産として「投資」し育成する時代への大きなパラダイムシフトを意味します。
転籍が可能になり、SNSで各社の労働条件や環境に関する情報が共有されるのが当たり前となっている中、企業は人材から「選ばれる立場」にあることを強く認識しなければなりません。制度を正しく理解するだけでなく、現場の多国籍化に対応した多言語コミュニケーションの仕組みづくりや、生活基盤の手厚いサポートなど、従業員が「この会社で働き続けたい」と思える環境を整えることこそが、これからの企業の最大の生存戦略となるでしょう。
育成就労制度に備え、外国人材273名にアンケート調査をおこないました。資料内では、日本で働くうえで思っていることや、どこから企業の情報を得ているのか、日本語のレベルによって変わる「壁」などをリアルにお伝えしています。こちらもあわせてご覧ください。






















