審査員特別賞:ジェイテクト様
利用製品:カミナシ レポート

ステアリングシステムや駆動部品をはじめとする自動車関連部品の製造・販売を手掛ける「株式会社ジェイテクト」。トヨタグループの一員として国内に12の製造拠点を展開する同社の中でも「国分工場」では、主に自動車や産業機械をはじめ、航空機、や鉄道などに使用される軸受の製造を担っています。
SDGsの推進をきっかけに、6年前から社内ではペーパーレス化が進められてきたものの、現場にはなかなか浸透せず、業務も技術も属人化のまま。世代交代のたびに手法や技術が失われていくことに危機感を持った「ころ生産課」の現場担当者たちは、写真やデータで技術を残すことで、次世代につないでいきたいと考えました。
手法や技術を、現場DXにより次世代に伝承するとはどういうことなのか。プロジェクトの指揮をとった、第1製造部ころ生産課の多賀様と、推進メンバーの田中様、金光様、佐々木様にお話を伺いました。

▲自動車の駆動を支える「ころ」の製造
ペーパーレス化の先にあった
アナログ作業による属人化という課題。
─国分工場の中で「DX」を意識するようになったのは、いつごろからでしょうか?
金光様:私が記憶している限りでは、6年ほど前でしょうか。持続可能なモノづくりを目指すために、SDGsを推進するなかで、温室効果ガス排出を低減させよう、技術革新やデジタル化に着手しようというような声が上がりました。そのために、まずはペーパーレスをどんどん進めていこうという話があがっていたので、その頃だったかなと思います。

▲【DX推進担当者】製造技術部 金光様
多賀様:とはいえ正直なところ「DXとは何だ?」というのが、生産課の率直な感想でした。社内IT部の主導で、イントラネットに社内開発されたデジタルツールがアップされる「デジタル祭り」という取り組みも2024年に始まったのですが、それでも現場では、抵抗を感じる意見が多い状況でした。
─現場の方々が前向きになれなかったのは、なぜでしょうか?
金光様:変化への恐れもありますし、体に染み付いている従来のやり方を続ける方が楽というのが、非常に大きかったのだと思います。ただ、技術の伝承という点には非常に危機感を持っていました。世代が変わるごとに、手法や技法が忘れ去られてしまうのではないかと感じていたので、それらを写真やデータで残していければ、人が代わったとしても伝承していけるなと。
多賀様:私は現場に入って約20年になるのですが、以前から「この作業要領書を見ただけで、みんなが同じようにできるのだろうか」という疑問を抱いていました。点検業務に興味がある・ないに関わらず、「ここは必ず確認しなければならない」というポイントを標準化するためにも、やはり今の時代に合わせた形にしていく必要があると感じました。その意味でも、DXやデジタル化は必須だと思いましたね。
金光様:「技能伝承」という、大きな課題と同時に、紙の保管場所が足りない・取り出すときに多くの工数がかかるという問題もありましたからね。

─そのような状況下で、問題などはありましたか?
多賀様:発生頻度は高くないものの、担当者の休暇中にトラブルが起きて、やむを得ず担当者に連絡しなければならないケースが過去にはありました。
金光様:属人化された状態だと、「今日は担当者がいなくて対応ができないから、設備を停止せざるを得ない」と、生産ラインを止める事態が発生する可能性はありますよね。
多賀様:そのなかで、社内のデジタル祭りをきっかけにDXへの機運が一気に高まり、現場でも「手書きのままではまずい」という声が挙がるようになったんです。そこでリーダーの田中が「まずは一回やってみよう」と言い出したことが、カミナシ導入のきっかけになりました。

▲【DX推進担当者】第一製造部 多賀様
カギは「人選」と「スモールスタート」。
現場にスムーズに定着したDX。
─カミナシ導入の背景と、プロジェクトの推進方法について教えてください。
田中様:カミナシを知ったきっかけは、2024年末頃にグループ会社が『カミナシ レポート』を活用しているという記事を社内のポータルサイトで見たことです。そこでまずは、各係のCL(チーフリーダー)から、DXに興味のあるメンバーを3名選出しました。金光には、そのサポートとして入ってもらいました。
金光様:ころ生産課には「ヘッダー係」と「研磨係」という2つの係があるのですが、最初はそれぞれに「デジタル祭りが始まっているし、みんなもデジタルツールを使ってみないか?」と声をかけて回ったんです。そこで反応の良かったヘッダー係から設備点検での帳票記録に『カミナシ レポート』を導入して、その後に研磨係へと広げていった、という流れになります。
田中様:いきなり全員を巻き込んで導入するのではなく、まずは前向きな人たちを初期メンバーとして選んでいきました。スモールスタートでやっていこうという流れで進めましたね。
多賀様:あとは正式運用の前にタブレットをミーティングルームに置いておき、好きに触ってみてくださいというアイドリング期間も1ヶ月設けました。そこで、誰が抵抗なさそうか、興味を持ってくれているかもわかりますからね。

─導入後の現場の反応はいかがでしたか?
多賀様:現場からの反発があるのでは、と思っていたのですが、意外と素直に受け入れてくれました。実際に使ってみて「こんなツールがあったのか」という意見をもらうなど、カミナシに対しては好印象でした。世の中がDXに向かっているという自覚が各々にあったことと、スマートフォンが身近にある時代なので、馴染みやすかったのだと思います。
田中様:『カミナシ レポート』のUIは、普段使うスマートフォンのアプリに近いので、抵抗感なく使えたのかなと思います。少人数で試験的に導入を始めたのが2025年2月。正式運用がスタートしたのは4月と、導入から定着まであっという間でした。

▲【DX推進担当者】第2製造部 田中様
─その中で、もっとも苦労したポイントはどこでしたか?
多賀様:一番苦労をしたのは、設備点検用の『カミナシ レポート』のひな形作成ですね。これまでも点検方法は現場で教えてきたんですが、実際には全員が同じ水準でできているわけではないと感じていたんです。だからこそ、しっかり伝わる形で残したいと思っていました。そのために、ひな形には項目ごとに写真を添付して「ここをしっかり確認してください」と明記して、点検方法が統一できるように工夫しました。写真でわかりやすく伝えるために、撮影する角度にも気をつけて何度も撮り直しをして…。そこが、一番時間がかかりましたね。
─確認ポイントを写真付きで入れたことで、現場からの反響はありましたか?
多賀様:ひな形を使って教育することで「作業内容がわかりやすくなった」という声もありますし、ある人からは「今まで、やり方は逆だと思っていました」とも言われました。カミナシのおかげで作業の誤りに気づくきっかけになったと感じています。
田中様:新任のメンバーが多い場所もあったので、配属時の教育にも使いやすかったですね。

多賀様:監督者に即時に情報が集まる体制が整ったことも良かったです。これまでも大きな異常があれば即座に報告はしていたのですが、チョコ停(*)のような小さな異常は、監督者に報告が届くまでに時間がかかっていました。紙ベースでの管理だと、承認や紙の回収などに労力や時間がかかり、現場の担当者がその場で異常の対処をすることも多かったため、監督者は修理依頼の判断が難しくなっていました。『カミナシ レポート』を導入したことで、チョコ停についても報告しやすくなり、現場の感覚を変えるきっかけにもなったのかなと思っています。
*製造業の工場などで発生する「チョコっと停止」の略語。数秒から数分程度の短時間で復旧する設備の一時的な停止を指す。
金光様:他にも、これまで作業者が口頭で改善点を伝えても、監督者が忘れてしまい、なかなか改善されないということがありました。伝えているのになかなか良くならないという状況が続くと、チョコ停が頻繁に発生しても、それが当たり前になり、連絡しなくなることも起こっていたんです。しかし、写真や文書で残せるようになったことで、「言っているのに変わらない」という現場のマインドも改善され、働く人たちの意識も変わってきたなと感じています。
─とてもいい循環ですね。ストレスが減ることは、モチベーションの部分に影響しますから。
金光様:監督者も、つい忘れてしまうことがあるので、記録に残ることで、それらを防ぐこともできますし、タスクをクリアする達成感みたいなものも同時に生まれてくるのでとても良いと感じますね。
帳票の移行作業から見えてきた、
業務内容のスリム化と現場のモチベーションアップ。
─ころ生産課としての現場DXの達成度は、どの程度でしょうか?
多賀様:30%ほどかと思います。テレビなどで他の工場を拝見すると、スマート工場化が進んでいるところもありますよね。まだそこまでにはたどり着けていないので、この達成度ではないかと。
田中様:『カミナシ レポート』の活用についても、現状は記録をとって集計をしているだけです。いずれこのデータの分析をして、次のアクションにつなげていきたいと思っています。現場のデータで経営にインパクトを与えられるところまで持っていきたいですね。
金光様:そうですよね。いまはデータを貯める時期。だからこそ、いち早くひな形をデジタル化するのが重要だと思っています。

─帳票の移行は、どの程度進んでいますか?
多賀様:30ある帳票のうち17くらいは移行できたと思います。
金光様:例えば、今まで紙ベースで運用していた複数の帳票を一つに統合して、チェック項目や作業そのものをブラッシュアップすることができています。「昔からやっているから」という理由だけで、実は必要がないのに続けてきた作業もあったんですよね。情報を細分化することで、「このチェック項目はいらない」「この帳票は合体できる」といった業務のスリム化も実現できました。

─現場DXを推進したことで、どんな成果や効果が得られましたか?
多賀様:記録を可視化させて設備停止の緊急性の判断が可能になったことで、設備停止の時間を月間3〜5%程度減少させることができました。時間にすると約30時間です。また、現時点のひな形数でいえば、月約135枚の削減につながっています。それに加えて、帳票を倉庫に持っていく毎月の作業や、異常があった際に倉庫まで取りに行って内容を確認する…といった工数も減りましたね。時間にすると月10時間ほどの削減につながっています。
―定性的な変化はどうでしょうか?
多賀様:私の肌感ではありますが、カミナシを導入したことで、モチベーションが上がっただけでなく、みんなのスキル向上にもつながっていると感じています。紙をなくすことも目的の一つではありますが、一番良かったのは、みんなが点検に取り組むようになり、その結果スキルアップにつながったことですね。作業の平準化という面でも、今回の導入でかなり近づいたと思います。みんなが同じ視点で見られるようになったのではないでしょうか。

―これから現場DXの推進を検討されている方々へ、メッセージをお願いします。
多賀様:紙からデジタルへの移行は、多少苦労を要する作業です。でも、楽になったと現場が実感できる何かがあれば、きっかけとなってDXに弾みがつくと思います。
金光様:そのためにも、前向きに取り組んでくれる社員を巻き込んで、実際に取り組んでいる様子を周りに見てもらい、共有しながら拡大していく。そんなやり方が一番だと思います。
田中様:今後、カミナシのようなツールがどんどん導入されていくんだろうな…という意識は社内にもあると思います。まだ現場にはDX担当者はいませんが、これからは若い人たちにも積極的に触れてもらうことで、DXをさらに加速させていきたいですね。

株式会社ジェイテクト 国分工場
業種:製造業
従業員数:855名(2025年11月現在)




















