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公開日 2026.06 .30

更新日 2026.06.30

【試算シミュレーター付き】事後保全と予防保全のコスト比較。自社設備に最適な保全方式の選び方 

【試算シミュレーター付き】事後保全と予防保全のコスト比較。自社設備に最適な保全方式の選び方

製造業では人手不足と設備の高経年化が同時に進み、どの保全方式を選ぶかが経営課題になっています。事後保全と予防保全のどちらがコスト面で有利かは、設備や人員、成果を求める期間によって変わり、「予防保全に切り替えたほうが安いのか」を数字で示せずに悩む現場担当者も少なくありません。

本記事では、コスト、リスク、向き不向きという観点で両者を比較し、自社に最適な保全方式を選ぶための判断軸を示します。定義の整理からコスト構造、4つの観点での比較、向く設備、選定フレームワーク、業種別の事例までを順に解説していきます。

目次

事後保全と予防保全、予知保全とは

保全方式は、大きく事後保全、予防保全、予知保全の3つに整理できます。まずはそれぞれの定義と特徴を押さえ、コスト比較の土台をつくっていきます。

事後保全(BM:Breakdown Maintenance)の定義と特徴

事後保全(BM:Breakdown Maintenance)とは、設備が故障してから修理する保全方式を指します。事後修理やリアクティブメンテナンスとも呼ばれます。特徴は、初期投資が小さく運用がシンプルな点です。

故障してから動く方式のため、計画的な点検や部品交換のコストがかからず、保全の仕組みづくりにも手間が要りません。一方で、いつ壊れるか読めないため、突発故障が起きたときの生産停止による機会損失が大きくなりやすいという弱点があります。

主に向いているのは、故障しても他設備で代替できる低重要度の設備や、安価で交換しやすい部品などです。すべての設備を手厚く保全する必要はなく、軽微な設備をあえて事後保全に回す判断も、立派なコスト戦略になります。

予防保全(PM:Preventive Maintenance)の定義と特徴

予防保全(PM:Preventive Maintenance)とは、故障する前に定期的な点検や部品交換を行う保全方式を指します。計画保全やプロアクティブメンテナンスとも呼ばれます。突発故障を未然に防ぎ、生産計画を立てやすくするのが大きな狙いです。

あらかじめスケジュールを組んで保全するため、突発対応に振り回されにくく、人員や外注の計画も立てやすくなります。その反面、まだ使える部品まで交換してしまう過剰保全のリスクがあり、部品コストが膨らみやすい面もあります。

予防保全は、点検や交換のタイミングをどう決めるかで2つに分かれます。一定の期間や稼働時間を区切りに保全する時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance)と、設備の状態を見ながら保全する状態基準保全(CBM:Condition Based Maintenance)です。この2軸の使い分けが、コスト最適化の鍵を握ります。

予知保全(PdM:Predictive Maintenance)など派生する保全手法との関係

予知保全(PdM:Condition Based Maintenance)とは、IoTセンサーで設備の状態をリアルタイムに監視し、故障の兆候を捉えてから保全する方式を指します。予防保全をさらに進化させた考え方だと位置づけられます。

保全の歴史は、事後保全から予防保全へ、そして予知保全へと、無駄を削りながら発展してきました。ほかにも、故障しにくいように設備そのものを改良する改良保全(CM:Corrective Maintenance)や、設計段階から保全の手間を減らす保全予防(MP:Maintenance Prevention)といった手法もあります。

本記事のメインは事後保全と予防保全のコスト比較ですが、その先に予知保全という選択肢があることも覚えておくと役立ちます。自社の設備や予算に合わせて、これらを組み合わせていく視点が大切です。

予知保全がコスト削減につながる仕組み

予知保全の最大のメリットは、「まだ使えるのに交換する」過剰保全を排除できる点です。センサーで実際の劣化状態を監視し、本当に必要なタイミングだけ保全するため、部品費の削減や緊急対応費の圧縮につながります。

導入のハードルも下がっており、IoTセンサーとクラウド監視をセットにしたSaaS型サービスであれば、1設備あたり月数千円〜数万円程度から始められるものもあります。まず基幹設備1台に試験導入してROIを確認し、効果が出てから横展開するのが現実的な進め方です。

事後保全と予防保全のコスト構造の違い

事後保全と予防保全のコストを正しく比べるには、表に見える費用だけでなく、間接コストや隠れコストまで含めて捉える必要があります。両者のコスト構造を対比すると、次のように整理できます。

事後保全

予防保全

直接コスト

修理費、交換部品費、外注メンテナンス費

定期点検費、部品の予防交換費、保全システム導入費

間接コスト

突発故障時の生産停止による機会損失、納期遅延の違約金

点検時のライン停止による機会損失(計画停止のため想定可能)

隠れコスト

夜間・休日の緊急対応費、ベテラン保全員の負担増

過剰保全による部品の早期交換、点検表の作成・教育の工数

実務上、最もコスト差を生むのは間接コスト(機会損失)であることが多く、ここを定量化できるかどうかが、経営層への説得力を左右します。以下で、事後保全と予防保全それぞれのコストを詳しく見ていきます。

事後保全にかかる主なコスト(修理費、機会損失、緊急対応費)

事後保全のコストで最も見落とされやすいのが、修理費そのものではなく、生産停止による機会損失です。直接コストは修理費や交換部品費、外注メンテナンス費などで、一見すると分かりやすい費用です。

しかし本当に効いてくるのは間接コストのほうです。突発故障で生産が止まれば、その間の機会損失や、納期遅延による違約金が発生します。さらに、夜間や休日の緊急呼び出し対応費、ベテラン保全員の負担増による離職リスクといった隠れコストも積み上がっていきます。

機会損失は、生産停止時間に単位時間あたりの粗利を掛けることで概算できます。たとえば時間あたりの粗利が10万円のラインが突発故障で24時間止まれば、それだけで240万円の損失です。経営層を説得するときは、この機会損失まで含めたトータルコストで比較すると説得力が高まります。

筆者の工場でも、主力ラインの充填機が突発停止し、復旧まで半日かかったことがあります。時間あたりの粗利がおよそ10万円のラインだったため、停止だけで50万円前後の損失です。この一件をきっかけに、重要設備だけは定期点検へ切り替えた経緯があります。

予防保全にかかる主なコスト(定期点検費、部品の予防交換費、点検員工数)

予防保全のコストは、その大半が前もって読める計画コストである点が特徴です。だからこそ、年間予算に組み込みやすいというメリットがあります。

直接コストは、定期点検費や部品の予防交換費、保全システムの導入費などです。間接コストとしては、点検のためにラインを止める時間が挙げられますが、これは計画停止なのであらかじめ見込めます。突発的に発生する事後保全の機会損失とは、その読みやすさが大きく異なります。

注意したいのは、隠れコストになります。まだ使える部品まで早めに交換してしまう過剰保全や、点検チェックリストの作成、点検員の教育に要する工数です。これらを放置すると、予防保全のコストは想定より膨らみます。点検頻度や交換基準を適切に設計することが、ここでのコスト管理の要になります。

4つの観点で事後保全と予防保全のコストを徹底比較

事後保全と予防保全は、コストの一面だけでは優劣を判断できません。コスト、突発故障リスク、保全業務の予測可能性、必要なスキルという4つの観点で比べると、それぞれの得意分野が見えてきます。

観点

事後保全

予防保全

向いているケース

コスト

短期は安いが長期で膨らみやすい

計画コスト中心で予算化しやすい

短期・低頻度なら事後、長期・基幹なら予防

突発故障リスク

予測不能で生産計画がぶれやすい

予兆を捉えて生産計画が安定する

24時間操業・JIT納入なら予防

予測可能性

突発対応が多く計画化しにくい

年間スケジュールを組める

人員・外注計画を立てたいなら予防

必要なスキル

トラブルシューティング力

標準作業の遵守力

属人化を避けたいなら予防

以下で、4つの観点を一つずつ掘り下げていきます。

コスト:短期は事後保全が安い、長期は予防保全が安いケースが多い

コスト面では、見る期間によって有利な方式が入れ替わります。数年という短期で見れば、初期投資がいらない事後保全のほうが安く見えるのが普通です。

ところが10年という長期で見ると、話は変わってきます。。突発故障のたびに発生する機会損失や緊急対応費が累積し、事後保全のトータルコストが膨らんでいくケースが多くなります。予防保全の計画的な費用と比べたとき、長い目では逆転する場面が少なくありません。

ただし、これはすべての設備に当てはまるわけではありません。もともと壊れにくい設備や、安価ですぐ交換できる設備であれば、事後保全のままのほうが安く済む場合もあります。短期か長期か、そして設備の性質はどうかという2つを合わせて判断することが大切です。

突発故障リスク:事後保全は予測不能、予防保全は予兆を捉えて未然対応

突発故障リスクの観点では、生産計画の安定度に明確な差が出ます。事後保全はいつ壊れるか読めないため、生産計画の達成率にブレが生じやすくなります。

一方の予防保全は、故障の予兆を捉えて事前に手を打つため、生産計画が安定します。とりわけ24時間操業やJIT納入を求められる自動車部品や食品などの業界では、突発故障リスクの差がそのまま競争力の差につながります。1回のライン停止が、取引先からの信頼を揺るがしかねないからです。

判断の目安として役立つのが、MTBF(Mean Time Between Failures:平均故障間隔)という指標になります。設備が平均してどのくらいの間隔で故障するかを把握できれば、予防保全に切り替えるべきかどうかを数字で議論できます。感覚ではなくデータで語れる点が、リスク管理では重要です。

保全業務の予測可能性:事後保全は計画化が難しく、予防保全は計画を立てやすい

予測可能性の観点では、人員配置のしやすさに大きな差が生まれます。事後保全は、いつ何件の故障が発生するか読めないため、夜間や休日の対応に追われ、保全担当の負担が偏りがちです。

これに対して予防保全は、年間の保全スケジュールをあらかじめ組めるのが強みです。そのため、人員配置も外注の計画も前もって設計でき、現場が突発対応に振り回されにくくなります。残業や呼び出しの波が小さくなることは、現場の働きやすさにも直結します。

人手不足が深刻な今の時代、業務を予測可能な状態にできることは、人材定着の面でも見逃せないメリットです。先が読める職場は、保全担当者にとって続けやすい職場でもあります。コストの数字には表れにくい価値だと言えるでしょう。

必要なスキル:事後保全はトラブルシューティング力、予防保全は標準作業の遵守力

必要なスキルの観点では、求められる人材像が大きく異なります。事後保全では、壊れた現象から原因を逆算するトラブルシューティング力が問われます。経験豊富なベテランに頼りやすい領域です。

一方の予防保全は、チェックリストに沿った点検が中心になります。作業を標準化しやすく、新人でも担当しやすいのが強みです。手順さえ整えれば、誰がやっても一定の品質を保てます。

この違いは、属人化への向き合い方にも関わる話です。予防保全への移行は、ベテラン依存から抜け出し、保全の品質を組織として安定させる一歩にもなります。人が入れ替わっても回る仕組みをつくりたい現場では、標準化しやすい予防保全が有利に働きます。

自社の保全コストを試算する3ステップ

「予防保全に切り替えたほうが安い」と感覚で分かっていても、数字で示せなければ経営層は動きません。ここでは、事後保全と予防保全のコストを自社で比較するための3ステップを紹介します。まず主力ライン1本に絞って試算するのが、現実的な始め方です。

ステップ1:事後保全の年間トータルコストを出す

過去1年分の保全記録をもとに、次の4つを合算します。

修理費+部品費+緊急対応費+機会損失(ダウンタイム時間×時間あたり粗利)

このうち最もコストを左右するのが、機会損失です。修理費や部品費は記録に残りやすいのに対し、生産停止による損失は見落とされがちです。ダウンタイムの記録がなければ、保全日報や生産日報をさかのぼって故障停止の時間を拾い出しましょう。

たとえば、時間あたりの粗利が10万円のラインで年間に合計30時間の突発停止があれば、機会損失だけで300万円になります。修理費が年間50万円だったとしても、トータルでは370万円という数字が見えてきます。

ステップ2:予防保全へ移行した場合のコストを試算する

移行後にかかるコストは、次の3つが中心です。

定期点検費+予防交換部品費+計画停止による機会損失

ポイントは、計画停止による機会損失の扱いです。突発故障と違い、計画停止はあらかじめ生産スケジュールに組み込めます。夜間や週末に短時間で実施する段取りを組めば、機会損失を大幅に圧縮できます。

また、予防保全へ移行すると緊急呼び出しや休日対応が減るため、人件費の削減効果も見込めます。この分も忘れずに試算に加えておくと、より実態に近い数字になります。

ステップ3:損益分岐点を計算する

ステップ1と2の数字が揃ったら、次の式で投資回収の年数を計算します。

投資回収年数 = 予防保全の年間コスト ÷(事後保全の年間コスト − 予防保全の年間コスト)

たとえば、予防保全の年間コストが170万円、事後保全の年間トータルコストが370万円であれば、差額は200万円です。170万円 ÷ 200万円 = 約0.85年で投資が回収できる計算になります。

目安として、投資回収年数が3年以内であれば、予防保全への移行を本格的に検討する価値があります。逆に回収に5年以上かかるようなら、その設備はしばらく事後保全のままにしておくか、対象範囲を絞り直すほうが合理的です。

この数字を持って経営層に臨めば、「感覚でなく根拠のある提案」として受け取ってもらいやすくなります。

保全コスト試算シミュレーター

以下のシミュレーターに、①事後保全の年間コストと②予防保全の年間コストを入れるだけで、③試算結果がスグわかります。是非お試しください。

保全コスト試算シミュレーター
1 事後保全の年間コスト
修理費・部品費
万円/年
緊急対応費(夜間・休日)
万円/年
時間あたり粗利
ラインの1時間あたりの粗利益
万円/時間
年間ダウンタイム
突発故障による生産停止の合計時間
時間/年
機会損失 = 時間あたり粗利 × 年間ダウンタイム
2 予防保全の年間コスト
定期点検費
万円/年
予防交換部品費
万円/年
計画停止による機会損失
事前調整できるため小さくなる
万円/年
3 試算結果
事後保全 年間トータル
350万円
予防保全 年間トータル
170万円
事後保全350万円
予防保全170万円
年間コスト削減額
180万円
投資回収年数
0.9年
予防保全への移行をおすすめします。約 0.9 年で投資が回収でき、年間 180 万円のコスト削減が見込まれます。

※ 試算はあくまで概算です。実際の導入検討には詳細な見積もりをお取りください。

事後保全が向く設備、予防保全が向く設備

すべての設備を予防保全にする必要はなく、設備の性質に応じて使い分けるのが現実的です。ここでは、事後保全が向く設備と予防保全が向く設備の条件を整理し、迷ったときの判断基準も紹介します。

事後保全が向く設備の条件(低重要度、安価、交換容易)

事後保全が向くのは、止まっても生産全体への影響が小さく、すぐ復旧できる設備です。あえて手厚い予防保全をかけず、壊れてから直すほうが合理的なケースも数多くあります。

あえて事後保全を選ぶという考え方

すべての設備を予防保全にすると、保全コストはかえって膨らみます。重要度の低い設備まで定期点検や部品交換の対象にすれば、その手間と費用が利益を圧迫しかねません。設備ごとにメリハリをつけ、軽微なものは壊れてから直すと割り切る姿勢も立派な戦略です。

事後保全が合理的な3つの条件

事後保全が合理的になるのは、主に3つの条件がそろう場合です。1つ目は、同じ役割の設備が他にもあり冗長性が確保されていること。2つ目は、部品が安価で短納期に調達でき、復旧が容易なこと。3つ目は、止まっても生産への影響が軽微なことです。この3つを満たすなら、事後保全のほうが無駄がありません。

具体的な設備例

条件に当てはまる典型例としては、補助ポンプや照明器具、一部の搬送機器などが挙げられます。これらは故障しても代替が利き、復旧も短時間で済むことが多い設備です。こうした設備に過剰な予防保全をかけないことが、全体のコストを抑える近道になります。

予防保全が向く設備の条件(基幹設備、高額、停止リスク大)

予防保全が向くのは、止まると全ラインに影響が及ぶ基幹設備や、故障時の損失が大きい高額設備です。先回りして守る価値が高い設備ほど、予防保全の効果が大きくなります。

予防保全が必須になる3つの条件

予防保全が欠かせなくなるものは、3つの条件で見極められます。1つ目は、止まったときの停止損失が大きいこと。2つ目は、人や食品に影響しうる安全リスクがあること。3つ目は、摩耗や劣化のパターンが予測でき、計画的な交換が効くことです。プレス機やCNC加工機、充填機、殺菌槽、ロボットアームなどが典型例になります。

時間基準保全(TBM)と状態基準保全(CBM)の使い分け

予防保全を選んだら、次は保全のタイミングをどう決めるかが課題になります。劣化の進み方が読みやすい設備には、一定の期間や稼働時間で区切る時間基準保全(TBM)が向いています。一方、劣化のばらつきが大きい設備には、状態を監視して必要なときだけ保全する状態基準保全(CBM)が効果的です。

過剰保全のリスク

予防保全には、やりすぎると逆にコストが膨らむという落とし穴もあります。まだ十分使える部品を一律に早期交換すれば、その分の部品費と工数が無駄になります。点検頻度や交換基準を設備の実態に合わせて見直し、守るべきところに資源を集中させることが欠かせません。

事後保全か予防保全か迷ったときの判断基準

迷ったときは、設備ごとに3つの軸でスコアリングすると、判断がぶれません。感覚で決めるのではなく、共通のものさしで点数化することがポイントです。

1つ目の軸は重要度で、その設備が止まったときに生産へ与える影響の大きさを見ます。2つ目は修理リードタイムで、部品の調達と修理にどれだけ時間がかかるかを見る軸です。3つ目は代替手段の有無で、バックアップ設備や外注への切り替えができるかを確認します。

これら3軸のスコアが高い設備ほど予防保全を手厚くし、スコアが低い設備は事後保全で割り切るようにします。この考え方を持つだけで、限られた保全予算をどこに振り向けるかの優先順位が、はっきりと見えてきます。

自社設備に最適な保全方式を選ぶフレームワーク

保全方式は、設備を一律に扱うのではなく、3つのステップで分類してから決めると失敗しません。重要度を付け、影響度を評価し、方式を決める。この順に進めるフレームワークを紹介します。

ステップ1:設備の重要度ランク付け(A/B/C分類)

最初のステップは、自社の設備を重要度でA・B・Cの3ランクに分類することです。すべての設備を同じ重みで扱わず、優先順位を付けることが出発点になります。

ランク付けの判定軸は3つに整理できます。止まったときの生産への影響度、バックアップなどの代替手段があるかという冗長性、そして安全や品質に関わるリスクの大きさです。たとえば、メインラインのコンベアーはA、補助ポンプはB、倉庫の照明はCといった形で当てはめていきます。

このランク付けは、現場の一存に任せないことが重要です。生産管理、設備管理、品質管理が合意した共通基準で決めることで、後から見直すときにも筋が通ります。判断の根拠を残しておけば、担当が代わっても運用がぶれません。

ステップ2:故障影響度(安全・品質・コスト)の評価

次のステップは、設備が故障したときの影響度を評価し、数値化することです。安全、品質、コストの3軸それぞれに5段階のスコアを設定し、合計点で影響の大きさを表します。

ここで気をつけたいのが、コストの評価です。修理費用だけを見るのではなく、1時間あたりのダウンタイム損失まで算入することで、はじめて実態に近い数字になります。停止している間に失われる粗利こそが、故障の本当のコストだからです。

スコア化のメリットは、設備どうしを同じ土俵で比較できる点にあります。点数という共通言語があれば、どの設備から手を打つべきかを関係者全員で議論しやすくなります。主観に頼らない評価が、納得感のある保全計画につながります。

ステップ3:保全方式の決定

最後のステップは、重要度と故障頻度の組み合わせから保全方式を決めることです。縦軸に設備重要度(A・B・C)、横軸に故障頻度(高・低)を置いたマトリクスにすると、どの設備に何を割り当てるかが一目で分かります。

設備重要度\故障頻度

故障頻度:高

故障頻度:低

A(基幹設備)

予知保全

予防保全(CBM)

B(準重要設備)

予防保全(CBM)

予防保全(TBM)または事後保全

C(補助設備)

事後保全

事後保全

重要度が高く故障も多い設備には、状態を監視する予知保全が向いている領域です。逆に、重要度が低い補助設備は、事後保全に回してコストを抑えます。このように方式を可視化すると、保全戦略を組織で共有しやすくなります。

混在運用の考え方:重要設備は予防、補助設備は事後

保全方式は1つに統一するのではなく、設備ごとに使い分ける混在運用が現実的です。全設備を予防保全にすべきという思い込みは、かえってコストを押し上げてしまいます。

短時間で復旧できる設備やリスクの低い箇所では、予防保全への投資が見合わない場合もあります。重要設備は予防保全で手厚く守り、補助設備は事後保全で割り切る。このメリハリこそが、保全コスト全体を最適化する考え方です。

筆者の現場でも、当初は不安からほぼ全設備を予防保全にした結果、まだ使える部品まで毎年交換し、年間の部品費が想定より2割ほど膨らみました。重要度で線引きしてからは、その無駄を抑えられています。なお、重要度ランクは一度決めて終わりにせず、年1回などのサイクルで見直すと、設備の老朽化や生産計画の変化にも対応できます。

業種別・設備別の保全方式選択事例

最後に、業種ごとにどの保全方式が選ばれているかを3つの事例で見ていきます。自社の業種と照らし合わせると、何を選ぶべきかの感覚がつかめるはずです。

自動車部品製造:ライン停止リスクが高く予防保全中心

自動車部品製造では、突発故障のコストが極めて大きいため、予防保全が中心になります。JIT納入と24時間操業が前提の業界では、ラインが1つ止まるだけで納期と信頼に直結するからです。

プレス機やCNC加工機、ロボットアームといった主要設備には、予防保全に加えて、IoT監視による予知保全を組み合わせる例が増えています。設備の状態を常時見張ることで、故障の兆候を早期に捉え、計画的に手を打てるようにする狙いです。

一方で、補助的な設備まで同じ手厚さで保全するわけではありません。重要度の低い設備は事後保全に回し、運用コストを最適化しています。守るべき設備に資源を集中させる、メリハリの効いた使い分けが特徴です。

食品工場:衛生管理の観点から状態基準保全(CBM)が有効

食品工場では、衛生管理が最優先されるため、状態基準保全(CBM)が有効に働きます。設備の劣化や汚染リスクをセンサーで監視し、異常の兆候を捉えてから保全する方式が広がっています。

殺菌槽や充填機、冷蔵設備などでは、温度や振動、稼働時間を継続的に監視します。これらは製品の安全に直結する設備のため、状態を見ながら適切なタイミングで保全することが、品質維持とコスト抑制の両立につながります。

ここでも、すべてをCBMにするわけではありません。補助的な搬送機器や照明などは事後保全で運用し、コストを抑えています。衛生に関わる重要設備はCBMで守り、影響の小さい設備は割り切る。食品業界らしいメリハリのある選択です。

インフラ(橋梁、道路):国交省が推進する事後保全→予防保全転換の事例

インフラ分野では、国土交通省が事後保全から予防保全型メンテナンスへの転換を強く推進しています。橋梁や道路、トンネルといった設備で、壊れてから直す方式を改め、計画的に保全する方針へ舵を切っています。

この転換の狙いは、長期的なコスト削減にあります。国の試算では、予防保全に移行することで将来の年間維持管理費を大きく抑えられ、30年間の累計でも相当のコスト削減が見込まれています。早めに手を打つほど、ライフサイクル全体のコストが下がるという考え方です。

この発想は、製造業の保全戦略にもそのまま応用できます。目先の修理費ではなく、設備を使い続ける期間全体のコストで判断する視点です。長く使う基幹設備ほど、予防保全への投資が将来の負担を軽くしてくれます。

参考:インフラメンテナンス情報 | 国土交通省

自社設備に最適な保全戦略を選ぼう

事後保全と予防保全は、どちらかが常に正しいというものではなく、トレードオフの関係にあります。短期のコストでは事後保全が、長期のトータルコストでは予防保全が有利になりやすく、設備の性質によっても答えは変わります。

大切なのは、設備の重要度と故障頻度に応じて方式を使い分けることです。重要設備は予防保全や予知保全で手厚く守り、影響の小さい補助設備は事後保全で割り切ります。この混在運用が、保全コスト全体を最適化する現実的な道になります。

まずは、自社の主要設備を重要度でランク付けし、故障したときの影響を数値で評価するところから始めてみてください。判断の軸が定まれば、限られた保全予算をどこに振り向けるべきかが見えてきます。小さく試して見直しを重ねながら、自社に合った保全戦略を育てていくことが、コストと安定操業を両立させる近道になります。

なお、設備台帳や点検履歴をデジタルで一元管理できる設備保全システムを活用すると、重要度ランクの見直しや故障頻度の集計が格段に楽になります。手作業での管理に限界を感じている場合は、まず資料請求から情報を集めてみるのも一つの手です。

執筆者:むつごろー

自動車メーカーの製造に勤務し、一次情報を基にした記事執筆をおこなう。機械製造以外にも食品製造への知見もあり、現場改善や品質管理における記事の執筆も担当している。

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