製造業において、生産能率を高めるにはタクトタイムの管理が欠かせません。タクトタイムとは、一つの製品を製造するために必要な時間の目安のことです。適切に見直すことで、生産ラインの無駄を削減でき、納期の遵守やコスト削減につながります。
一方で、現場では生産が追いつかず納品が遅れる、逆に過剰生産で在庫を抱える、などの問題が発生することもあります。また、サイクルタイムやリードタイムとの違いがわかりにくく、適切な改善策を判断しづらいケースもあります。こうした課題を解決するためには、まずタクトタイムを正しく理解し、現状の生産体制を把握した上で適切な改善策を検討することが重要です。
この記事では、タクトタイムの定義や計算方法、サイクルタイムやリードタイムとの違い、タクトタイムの改善策、改善事例を詳しく解説します。ぜひ本記事を参考にタクトタイムへの理解を深めて、自社の生産性向上に役立ててください。
目次タクトタイムとは
タクトタイムとは、一つの製品を完成させるまでに必要な時間の目安を指し、ピッチタイムと呼ばれることもあります。
製造現場では、生産効率を高めるために作業の流れを標準化する標準作業という考え方があります。タクトタイムは標準作業を構成する三大要素の一つです。標準作業の三大要素は以下の通りです。
タクトタイム:製品の製造に要する時間の目安(目標時間)
作業順序:作業者の負担が少なく、良品を安定して作れる作業の進め方や手順
標準手持ち:作業者がスムーズに作業を進めるために必要な最低限の仕掛品
タクトタイムを標準作業の他の要素と組み合わせることで、作業の順番や必要な仕掛品が明確になり、道具を探す時間ややり直し作業といった無駄を減らせます。結果として、現場全体の作業効率を向上させることが可能です。
また、タクトタイムを算出することで、各工程にかける時間の配分が可視化され、生産管理がしやすくなります。
例えば、1時間で200個の製品を納品する必要がある場合、単に200個という数量だけを設定しても、各工程にかけるべき時間は不明確です。しかし、タクトタイムを算出すると、1個につき約0.3分(18秒)のペースで作業を進めるべきと判断でき、効率的な時間配分が可能になります。
さらに、管理者がタクトタイムを基に作業工程を見直し、時間のかかっている箇所を特定、改善することで、納期遵守や無駄の削減につながります。製造業にとってタクトタイムは、品質の良い製品を無駄なく作るために重要な指標です。
タクトタイムの計算方法
タクトタイムは、顧客の希望納期と必要な製品数をもとに、生産ラインの作業ペースを把握するための指標です。
そのため、顧客の希望納期と製品数が明確であり、1日の生産必要数を算出することでタクトタイムが算出できます。
条件:納期は10日間、必要な製品数は2,400個
計算式:タクトタイム=1日の定時稼働時間÷1日の生産必要数
1日の稼働時間を8時間(480分)とし、条件から1日の生産必要数(2,400÷10=240)からタクトタイムを求める(480分÷240分=2分)と、1個あたり2分以内に生産を終えるペースを守れば、納期を遵守できる判断になります。
1日の定時稼働時間(8時間=480分)÷1日の生産必要数(240分=2,400÷10)=2分
実行タクトタイムとは
実行タクトタイムとは、定時外稼働時間(残業やトラブル対応に要する時間)を含めた稼働時間で算出したタクトタイムのことを指します。
通常のタクトタイムでは定時稼働時間のみを考慮しますが、実行タクトタイムでは突発的なトラブルや追加稼働時間を加味することで、より実態に即した生産ペースの把握が可能です。実行タクトタイムは以下の計算式で算出できます。
実行タクトタイム=(1日の定時稼働時間+1日の定時外稼働時間)÷1日の必要生産数
例えば、1日の定時稼働時間が8時間(480分)、定時外稼働時間が1時間(60分)で、900個の製品を10日で納品する場合、以下のように計算されます。
1日の生産必要数=900個÷10日=90個
実行タクトタイム=(480分 + 60分)÷90個=6分
この計算により、1個の製品あたり6分での生産が必要であるとわかります。
機械の故障や資材の遅延といった突発的なトラブルが発生する可能性がある場合は、実行タクトタイムを活用することで、納期遅延のリスクを抑え、柔軟な生産計画を立てる助けになります。
タクトタイムとサイクルタイムの違い
タクトタイムとサイクルタイムは混同されやすいものの、それぞれ異なる意味を持っています。
サイクルタイムとは、一つの製品を作るために実際にかかった時間を指します。タクトタイムが生産計画上目安となる時間であるのに対し、サイクルタイムは実際にかかった時間であるため、両者を正しく理解し区別することが重要です。サイクルタイムは、以下の計算式で算出できます。
サイクルタイム=定時稼働時間÷実際に生産した製品の数
例えば、1日の稼働時間が8時間(480分)で実際に生産した製品が240個だった場合、以下のように算出されます。
サイクルタイム=480分÷240個=2分
この計算から、一つの製品に対して2分の時間を要していることがわかります。タクトタイムとサイクルタイムを比較することで、現在の生産ペースが計画通りか否かを確認でき、必要に応じてボトルネックの特定や改善策の検討につなげられます。
タクトタイムとリードタイムの違い
サイクルタイムと同様に、タクトタイムと混同されやすい用語の一つとして、リードタイムがあります。リードタイムとは、発注から納品までにかかる所要時間の合計を指し、工程間で発生する待ち時間や検品にかかる時間も含まれます。
リードタイムには以下のように複数の種類があり、各製造プロセスに応じて分類されます。リードタイムの種類とそれぞれの概要を以下の表にまとめました。
リードタイムの種類 | 詳細 |
|---|---|
開発リードタイム | 製品開発~立案にかかる期間 |
発注リードタイム | 発注してから納品されるまでの期間(顧客目線) |
納品リードタイム | 発注を受けてから納品するまでの期間(生産者目線) |
調達リードタイム | 材料を仕入れるのに要する期間 |
製造リードタイム | 製品の製造開始~完成までの期間 |
配送リードタイム | 完成品の梱包、配送から顧客への納品までの期間 |
リードタイムの種類と詳細
リードタイムが短い場合、製造ライン全体がスムーズに進んでいる状態を示します。一方でリードタイムが長い場合は回転率が悪いことを示しているため、短縮するように改善が必要です。
また、リードタイムは納期に対して適切な作業開始日を逆算する際にも活用されます。計算方法は、大きく固定リードタイムと変動リードタイムの2つに分けられます。
固定リードタイムは品目ごとにあらかじめ一定の期間を設定する方法で、以下のように予定開始日を算出できます。
計算式:予定開始日=納期-(固定リードタイム+安全リードタイム(予備時間))
そのため、以下の条件だった場合は、予定開始日は4月8日になります。
納期:4月20日
固定リードタイム:10日
安全リードタイム:2日
計算式:予定開始日=4月20日−(10日+2日)=4月8日
一方、変動リードタイムは、ロットサイズや作業内容によって所要期間が変動する方法で、より実態に即した計画が立てられます。
計算式:予定開始日=納期−〔(待ち時間+段取り+後処理+移動)+(オーダー数×1個あたりの作業時間)〕
そのため、以下の条件だった場合は、予定開始日は4月7日になります。
納期:4月20日
待ち時間:1日、段取り:0.5日、後処理:0.5日、移動:1日
オーダー数:100個、1個あたりの作業時間:0.1日
予定開始日=4月20日 −[(1+0.5+0.5+1)+(100×0.1)]=4月7日
固定リードタイムは計算が簡便であり、変動リードタイムはより実際の状況に合わせた計画が立てられる点が特徴です。
タクトタイムとサイクルタイムの数字からわかること
タクトタイムとサイクルタイムを比較することで、生産状況から改善の必要性を判断できます。タクトタイムとサイクルタイムの関係から、それぞれの生産状況とわかることを以下の表にまとめました。
2つの関係 | 状況 | わかること |
|---|---|---|
タクトタイム=サイクルタイム | 理想的な状態 | 需給のバランスが取れ、生産ペースが最適化されている |
タクトタイム<サイクルタイム | 生産が需要に追いついていない状態 | 生産ペースが間に合わず、欠品や納品遅れのリスクがあるため、生産能力の強化やボトルネックの改善が必要 |
タクトタイム>サイクルタイム | 生産が需要を上回っている状態 | 余剰在庫を抱えるリスクがあるため、人員配置や稼働計画の見直しが必要 |
タクトタイムとサイクルタイムの数字からわかること
タクトタイムとサイクルタイムの差を把握することで、生産スピードの課題を可視化できます。この差を分析し、適切な改善策を講じることで、より効率的でムダのない生産体制を構築することが可能です。
タクトタイム=サイクルタイムの状態へ改善する方法
製造現場ではタクトタイムとサイクルタイムのズレが大きいと、計画通りに生産が進まず、納期遅延や過剰在庫といったトラブルにつながることがあります。両者のズレを放置すると現場の負担が増え、生産体制が不安定になるリスクも高まります。
こうした問題を未然に防ぐには、自社の状況に合った改善策を講じることが欠かせません。ここからは、サイクルタイムをタクトタイムへ近づける対策を状況別に解説します。
タクトタイムよりサイクルタイムが長い場合、各工程の時間を短縮する
タクトタイムよりサイクルタイムが短い場合、需要予測を可視化する
自社の課題に合わせて改善方法を取り入れ、安定した生産体制の見直しに役立ててください。
タクトタイムよりサイクルタイムが長い場合、各工程の時間を短縮する
タクトタイムよりもサイクルタイムが長い場合は、生産ペースが需要に追いつかず、欠品や納期遅れが発生する可能性があります。
サイクルタイムを短縮し、タクトタイムに近づけるための主な対策は以下の通りです。
5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の徹底:道具や部品の配置を整え、必要なものをすぐに取り出せるようにすることで、無駄な動きを減らす
ボトルネック(作業が停滞している工程)の特定と改善:組立や検品など時間がかかる工程を洗い出し、治具の導入や作業手順の見直しでスピードアップを図る
進捗を常に確認できる仕組みづくり:タブレット端末や進捗管理ボードを活用して作業状況を共有し、滞留している工程を早期に特定・対応する
人員の増加:負荷の高い工程に人員を増やすことで、作業の偏りをなくし、生産ライン全体の流れをスムーズにする
サイクルタイムを適切に短縮すれば、全体の生産バランスが整い、計画通りの納品や安定した供給体制の構築につながります。
タクトタイムよりサイクルタイムが短い場合、需要予測を可視化する
タクトタイムよりサイクルタイムが短い場合、生産が需要を上回り、余剰在庫を抱えるリスクがあります。これにより保管コストの増加や在庫廃棄の問題が生じる可能性があります。余剰在庫の発生によるロスを防ぐためには、需要予測を可視化し、サイクルタイムがタクトタイムに近づくように生産量を適正に調整することが重要です。
サイクルタイムがタクトタイムに近づくように生産量を適正化する施策の一例として、以下のような取り組みがあります。
需要予測の精度向上:過去の販売データや季節変動の影響を分析し、実際の需要に即した生産量を割り出す
需要予測システムの導入:AIやクラウド型のツールを導入し、需要予測と在庫状況をリアルタイムで可視化・自動化する
販促施策による受注数の増加:キャンペーンや値引き、広告配信などによって需要を喚起し、生産量とのバランスを図る
稼働時間の調整:閑散期には稼働時間を抑え、繁忙期には延長稼働や人員増強で対応するなど、柔軟なシフト運用を行う
標準手持ちの見直し:在庫回転率や作業スピードを基に、工程ごとの適正な仕掛品数を再設定する
生産量を実際の需要に合わせて調整することで、在庫ロスや余剰コストを抑え、効率的で無駄のない生産体制を実現できます。
設備管理の改善により、タクトタイムからの逸脱を防いだ事例
総合デイリーフーズメーカーの株式会社オイシスでは、設備停止時の対応に時間がかかることが大きな課題となっていました。
設備情報が複数のシステムで分散して管理されていたため、履歴の確認に時間を要していたのです。また、部品交換や修理の履歴が個人管理だったことから、設備状態がブラックボックス化していました。誰がいつ何をしたのかを把握しづらく、修理対応が遅れるケースも発生していました。その結果、設備の修繕に時間がかかり、生産ラインが長時間停滞する事態も起きていました。
こうした状況を改善するため、同社は設備の状況や修繕履歴を一元管理できるシステムを導入しました。これにより、メンテナンス記録がリアルタイムで可視化され、設備異常の早期発見や迅速な修理対応が可能になっています。
システムの導入により設備停止のリスクが大幅に軽減され、生産計画に沿ったペースでの安定稼働が実現しました。タクトタイムからの逸脱を防ぐことで、納期遅延や生産ロスといったリスクの最小化にもつながっています。
▶ 設備状況の可視化によりタクトタイムからの逸脱を防止した本事例の詳細については、以下の記事をご覧ください。
設備保全システムを導入し、9工場2000台の設備情報の管理と可視化に挑む
タクトタイムを見直して業務を改善しよう
タクトタイムとは、一つの製品を製造するのにかかる時間の目安であり、サイクルタイムやリードタイムとは異なる指標です。タクトタイムとサイクルタイムを比較することで、生産の過不足やボトルネックを可視化でき、自社の状況に応じた具体的な改善策を検討しやすくなります。
サイクルタイムをタクトタイムに近づけるためには、設備が安定して稼働していることも重要です。設備停止が原因でタクトタイムとサイクルタイムの差を生んでいる場合は、まず定期的な点検や保守体制の構築から取り組むとよいでしょう。
紙ベースでの設備管理が煩雑になっている場合は、システムの導入もおすすめです。カミナシ 設備保全は、設備情報をクラウド上で一元管理できるツールです。モバイル端末からリアルタイムで修繕履歴や稼働状況を確認でき、設備異常の早期発見にも役立ちます。
設備管理の効率化は計画通りの生産ペースを保つことにもつながり、納期遅延や生産ロスのリスク低減にも貢献します。
カミナシ 設備保全の詳細を記載した資料は以下からダウンロードできます。自社の業務改善にぜひご活用ください。























