本記事は、YouTubeチャンネル「ゲンバとヒト日本の変革に挑む」で公開された対談動画『【工場潜入】ハコに命を吹き込む職人たち 新潟・燕市の箱工場【ほしゆう】』の内容を基に作成したサマリー記事です。
新潟県燕市で1957年から特別なパッケージを製造する「ほしゆう」の工場に潜入し、印刷・抜き・ムシリ・貼りという各工程における職人の驚異的なこだわりをレポート。デジタル化が難しいアナログな調整のリアルや、技術承継のリアルに迫ります。製造現場の最前線で今何が起きているのか、ぜひ動画本編でご覧ください!
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なぜ最新鋭の6色印刷機があっても「アナログな調整」が必要なのか?品質を左右する職人の環境適応力
1957年の創業以来、特別な体験を届ける箱作りを追求してきた株式会社ほしゆう。最新のドイツ製6色UV印刷機を導入しつつも、最終的な品質の鍵を握るのは「職人の目と五感」というアナログな判断力にありました。デジタル化が進む製造現場において、今なお人間の感性が求められる理由を解き明かします。
ほしゆうの印刷工程の主軸を担うのは、ドイツのハイデルベルク社製「XL」と呼ばれる最新鋭の6色UV印刷機です。一般的な4色カラー(BCMY)に加え、さらに2色の特色(金や銀など)を同時に印刷できるほか、表面に立体的な質感を表現する特殊な弾きニス(疑似エンボス)を施すなど、高度な多色・特殊印刷をワンソーシングで実現しています。
しかし、どれほど機械がデジタル化され、自動でインキの濃度を測定できるようになったとしても、最終的な仕上がりを担保するのは職人の目です。印刷現場では、以下の要素が複雑に絡み合い、日々コンディションが変化しています。
経時的な品質の変動:朝一の機械が冷え切っている時間帯と、稼働を続けて熱を持った午後では、網点(あみてん)と呼ばれる印刷の微細なドットの太さがどうしても変化してしまう。
職人の目による微調整:データ上の濃度数値が適正であっても、実際の印刷物を見つめる職人が「少し赤みが強い」「黄色が浮いている」といった違和感を察知し、数値を超えた官能評価で微調整を施す。
厳格な環境管理:印刷品質のブレを最小限に抑えるため、工場内は室温26℃、湿度50〜60%を基準に24時間体制で厳格に管理。機械停止時や季節ごとのデータ蓄積を徹底している。
このように、圧倒的な生産性とスピードを誇るオフセット印刷でありながらも、最後のクオリティを決定づけるのは職人の経験と勘。まさに「最新のデジタル設備」と「アナログな職人技」の融合こそが、同社の高い付加価値を生み出す源泉となっています。
「0.1mmのズレも許さない」抜き打ち工程に見る、ベテランが機械を「部下ではなく相方」と呼ぶ真意
印刷された平面の紙に、折り目と切り込みを入れて箱のカタチへと変える「抜き打ち工程」。30年以上のキャリアを持つベテラン職人は、0.1mmの狂いも出さない超精密な調整を日々行っています。長年連れ添った機械を「相方」と位置づけ、次工程への配慮まで計算し尽くしたプロフェッショナルの思考に迫ります。
抜き打ち工程では、上下に運動するプレス機に「抜き型」をセットし、超高速で紙を打ち抜いていきます。私たちが日常的に目にするティッシュボックスなどの複雑な展開図も、すべてこの工程で精密にカタチ作られます。ここでの最重要課題は、印刷されたデザインの柄と、抜き型の位置を正確に一致させる「見当(けんとう)合わせ」です。
職人が掲げる基準は「基本的には0.1mmもずらさない」という極限の精度。この驚異的な精度を維持するために、職人は単にスイッチを押すだけでなく、五感をフルに活用して機械と対話しています。
温度変化による挙動の予測:機械が始動して温まる前と後では、わずかにプレスの強さやタイミングに変化が生じる。職人はその微細な差を長年の感覚で捉え、事前の調整を施す。
ムラ取りによる微調整:紙の厚みや状態に応じて、プレスの圧力が均一にかかるよう、型にテープを貼るなどのアナログな微調整(ムシリやすさの調整)を徹底的に行う。
後工程(次工程)への徹底した配慮:自分が担当する工程だけでなく、次に待つ「不要な紙を取り除く(ムシリ)作業者」が、製品を傷つけず、かつ余計な力を入れずに作業できるよう、最適な刃の入り具合を逆算して調整している。
入社以来30年以上にわたり抜き工程一筋で歩んできたベテラン職人は、共に闘う機械のことを「部下ではなく相方」と表現します。機械の癖を知り尽くし、手先の感覚でその「機嫌」をコントロールする技術は、簡単にはコピーできない製造業のコアコンピタンスそのものです。
ベンチプレス100kgでも動かない?力とコツが融合する「ムシリ技術」に見る属人化の壁
切り込みが入ったシートから不要な端材を手作業で引き剥がす「ムシリ」の工程。一見すると誰にでもできる単純な力仕事のように見えますが、実は1年以上の経験を要するほどの高度なコツが必要とされる世界でした。筋力だけでは通用しない、製造現場における「暗黙知」のリアルを解説します。
抜き打ちされた後のシートは、製品となる部分と、周囲の不要な端材(紙の余白)が繋がった状態で運ばれてきます。これらを綺麗に分別し、製品だけを抜き出す作業が「ムシリ(鳥取り)」です。職人は、山積みにされたシートの束をテーブルに据え、一瞬のうちに両端の端材をリズミカルに、かつ完璧にむしり取っていきます。
この作業に番組ナビゲーター(ベンチプレス100kgを上げる筋力の持ち主)が挑戦したところ、紙の束はびくともせず、1mmも引き剥がすことができないという事態が起きました。ただ力任せに引っ張るだけでは紙が途中で破れて製品を汚してしまい、かといって慎重になりすぎれば生産性が著しく低下してしまいます。
刃の入り方を見極める:抜き型によって入れられた切れ込みに対し、どの角度から、どれほどの瞬発力で圧力をかけるべきかを、手が覚えている。
絶妙なバランス感覚:紙を引き剥がすための「力強さ」と、製品を傷つけないための「優しさ(繊細さ)」を高い次元で両立させる。
暗黙知の習得:どんな複雑な形状であっても、雑にならず、一度でクリーンに端材を取り除けるようになるには、最低でも「1年以上の実践」が必要とされる。
手際よく処理された端材はコンベアに流され、100%リサイクルに回されます。この「ただ引き剥がすだけ」に見える名もない業務の中にこそ、職人の身体感覚に紐づいた強固な「暗黙知」が隠されており、同時にこれが製造業における属人化の壁となっているのです。
「折れない箱はない」複雑なオーダーに応える誇りと、職人の技術を言語化する組織の底上げ戦略
最終段階である「のり付け・折り・圧着」を経て、平らな紙はついに立体的なパッケージへと生まれ変わります。「折れない箱はない」と言い切るほしゆうの職人たちが、製造業の積年の課題である「背中を見て覚えろ」からの脱却へと動き出した、技術承継の現在地を探ります。
パッケージ製造の最終工程を担うのが、高速でのり付けと折りを行う「サックマシン(フォルダグルーアー)」です。この工程は、紙を1枚ずつ正確な間隔で「まっすぐ」送り出すフィーダー(休止)部分の調整が命。ここでわずかでも傾きや2枚重ねが発生すれば、後続の折りがすべて歪んでしまい、大量の不良品を生み出す原因になります。
流れる紙に対してディスクで正確にのりを塗布し、ガイドと爪を用いて瞬時に折り畳み、最後は圧着コンベアの圧力によって完璧に固定します。顧客からの要望は年々複雑化し、一筋縄ではいかない特殊形状のオーダーも増えていますが、職人たちはマシンの構造を理解し、独自の工夫でアタッチメントを切り替えて対応します。
高いプロ意識:「折れない箱はありません」と断言し、難解な案件が来るたびに「自分の獲物だ、攻略するのが楽しい」と捉える高いモチベーション。
従来の技術承継の限界:これまでは「言葉にできないから、数をこなして体で覚えろ」という、個人のセンスに依存した教育が一般的だった。
スキル平準化への挑戦:ベテランなら30分で完了する機械のセットアップ(段取り換え)に、若手だと数時間かかってしまうギャップを解消するため、持っている技術の「言語化」とマニュアル化に着手。
これまで職人の頭の中にしか存在しなかったノウハウを抽出し、言葉にして組織へ伝えることで、現場全体のスキルの底上げ(ボトムアップ)が少しずつ始まっています。「職人技の誇り」を守りつつも、それをオープンにして組織の資産へと変えていく取り組みこそが、次世代の製造業が目指すべきDXの基盤となるでしょう。
一枚の平らな紙が、1mmの狂いも許さない職人たちのバトンリレーによって、付加価値の高いパッケージへと生まれ変わるドラマがそこにはありました。「株式会社ほしゆう」の強みは、最新設備を使いこなす熟練の感性だけでなく、属人化しがちな職人技を「言語化」して組織全体を底上げしようとする先進的な姿勢にあります。伝統の技に甘んじることなく、変化を恐れずに次世代へ技術を繋ぐ同社の取り組みは、技術承継や製造DXに挑むすべてのビジネスパーソンにとって、大いなるイノベーションのヒントになるはずです。
動画本編もぜひご覧ください。





















