本記事は、YouTubeチャンネル「ゲンバとヒト日本の変革に挑む」で公開された対談動画『【職人インタビュー】技術はどう受け継がれるのか 新潟・燕市の箱職人たちの組織論【ほしゆう】』の内容を基に作成したサマリー記事です。
ベテランと若手のギャップを埋める社内勉強会の取り組みから、他社が敬遠する複雑なパッケージ製造へあえて挑戦し続ける組織のDNAまで。製造現場の最前線で今何が起きているのか、ぜひ動画本編でご覧ください!
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勘と経験のブラックボックスを破る。なぜ今、職人の世界で「勉強会」が必要なのか?
伝統的な「背中を見て覚えろ」という職人文化が根強い製造業界において、パッケージ製造を手掛ける「ほしゆう」では、ベテランから若手への技術伝承を目的とした独自の勉強会を立ち上げました。その背景には、個人の経験に頼る指導からの脱却と、組織全体の底上げという強い危機感がありました。
かつての製造現場では、言葉にできない技術は「数をこなして体で覚える」のが一般的でした。教える側にとってもその方が手離れが良く、楽な側面があったのは事実です。しかし、市場から求められる品質基準が年々厳しさを増す中で、従来のやり方だけでは若手オペレーターがそのスピードについていけないという現実が浮き彫りになってきました。
実際に現場では、同じ作業であってもベテランが30分で完了できるタスクに対し、若手はその倍以上の時間がかかってしまうといった「技術の格差」が常態化していました。さらに、普段はそれぞれが自身の担当する機械にかかりきりになるため、オペレーター同士の横のコミュニケーションが不足し、悩みや課題を一人で抱え込みやすい環境にあったことも課題でした。
この状況を打破するため、現場のリーダーである課長が旗振り役となり、部署や世代の垣根を越えた勉強会がスタートしました。
単に効率を追求するだけでなく、「自分たちが持つ技術を次世代に伝えることが、最終的にチームや会社を良い方向へ導き、自分たちの働きやすさにも繋がる」という共通認識が、ベテラン勢の背中を押す原動力となったのです。
「言葉にできない感覚」をどう伝える?テストとアンケートが生んだ現場の共通言語
職人の「感覚」や「コツ」といった言語化が極めて難しい暗黙知に対し、ほしゆうの勉強会ではデータや可視化ツールを用いたアプローチを取り入れることで、若手の確実なステップアップを実現しています。
勉強会を進めるにあたり、最初に直面したのが「感覚的な技術をどう言葉で説明するか」という壁でした。例えば、製造工程における微調整のニュアンスは、どうしても「慣れるまでやってみて」と言わざるを得ない場面が存在します。そこで同社では、以下のような具体的な仕組みを取り入れ、技術の見える化を進めました。
目視できるテストの実施:特定の条件下で資材がどのような状態になるかを実際にテストし、その結果を目で見て確認できる検証の場を設けました。これにより、ベテラン自身も感覚で行っていた部分のロジックが再確認され、双方にとって有意義な学びとなっています。
オペレーターへの事前アンケート:勉強会のテーマは上長が一方的に決めるのではなく、事前に「今何に悩んでいるか」「どんなことを学びたいか」を全オペレーターから吸い上げる形を採用しました。
優先順位の明確化:アンケートで最も意見が多かった「不良品の削減」や「品質向上」に直結する課題から優先的にテーマを設定しました。
特に、オペレーターごとに打ち方に若干のバラつきがあったデリケートな作業工程(肉打ち等)においては、「どこに打つのが最適か」という共通意識を勉強会を通じて徹底的に揃えました。これにより、個人の勘に頼らない「ほしゆうとしての標準品質」の基盤が作られています。
心理的安全性が品質を変える。若手が「質問しやすい」空気を作るベテランの巻き込み方
勉強会の成果は技術的な向上にとどまらず、現場のコミュニケーション活性化という形で現れています。若手が萎縮せず発言できる環境づくりこそが、新たな課題を発見し続ける組織の強さとなっています。
勉強会が定着する以前は、若手社員が「こんなことを聞いてもいいのだろうか」と恥ずかしがったり、遠慮したりして質問をためらう場面が少なくありませんでした。しかし、定期的な意見交換の場を通じて、「何を言っても否定されない」という雰囲気が醸成されたことで、日常業務でも細かい疑問をその場で解消できるようになりました。
この変化を支えているのが、社内ポータルを活用した相互理解と、ベテラン側の意識改革です。同社では、会社の支給端末からアクセスできるポータルサイト内にスタッフのプロフィールを掲載し、趣味や自己紹介を共有しています。これが日常の雑談のきっかけを生み、世代間の距離を縮める潤滑油となっています。
また、他社へ勉強会を推奨するポイントとして、現場のメンバーは「他部署の視点を交えること」と「ベテランが若手の意見を否定しない寛容さを持つこと」の重要性を挙げています。
勉強会を重ねた結果、当初の課題はクリアされたものの、品質基準が厳しいがゆえにまた新たな次なる課題が見つかるという「進化のサイクル」が生まれています。課題がゼロになることはありませんが、それを全員で共有し、若手からガンガン発言していこうという前向きなカルチャーが、現場の確かな底力となっています。
2027年70周年、30億円へのロードマップ。あえて「誰もやらない複雑な箱」で勝負する理由
ほしゆうが目指すのは、簡単な形状の大量生産ではなく、他社が敬遠するような超複雑・高付加価値なパッケージへの挑戦です。製造部長の黒鳥氏が語る、会社のDNAと未来のDX戦略に迫ります。
同社は2027年に創業70周年を迎え、売上目標30億円を掲げています。効率性だけを求めれば、単純な形状の箱を大ロットで回した方が目標達成への近道に見えるかもしれません。しかし、ほしゆうがあえて手のかかる複雑な形状や、特殊な過飾を施したパッケージにこだわり続ける理由は、約20年前の挑戦にさかのぼります。
当時、まだ周囲の競合が手をつけていなかった「UVニスを用いた表面加工(疑似エンボス等)」の技術に、当時の印刷オペレーターであった黒鳥氏らは手探りで挑戦しました。水性ニスとは全く乾燥特性が異なる材料を扱い、機械が1日止まってしまうような失敗を幾度も重ねながら、誰も真似できない独自のノウハウを蓄積してきたのです。この経験が、「単純なものは作りたがらない、特殊なものばかりをあえて選ぶ」という同社の強固なアイデンティティを形成しました。
過去には、タレントの等身大POPのように、巨大すぎて印刷機に入らないサイズを数分割して狂いなく貼り合わせるという、色ムラが一切許されない極めて難易度の高い案件もやり遂げてきました。営業メンバーが自信を持って難度の高い案件を受注してこられるのも、この「やるしかない、やり切る」という確かな技術と覚悟を持った製造部が後ろ盾にいるからです。
今後の展望として、職人のコアな技術そのものは人でしか伝承できないとしつつも、「過去のトラブル履歴や対処法をすぐに呼び出せるAIサポートシステム」などのデジタル技術(DX)を組み合わせることで、技術以外の面から現場の職人を強力にバックアップしていく構想を描いています。
ものづくりの楽しさは、単に製品を完成させることだけではありません。ほしゆうの現場が証明しているのは、個人の「職人技」を組織の「共通の強み」へと昇華させるコミュニケーションの力です。
パッケージは単なる箱ではなく、手にする人をワクワクさせるプロダクトそのもの。その品質を維持し、誰もが無理だと思う難題をチーム一丸となって「やるしかない」と楽しんでやり切る姿勢にこそ、これからの日本の製造業が目指すべき変革のヒントが隠されているのではないでしょうか。
動画本編もぜひご覧ください。





















