設備が故障してから直す対応だけでは、突発的な停止で生産計画が乱れ、修理や復旧に追われる状態から抜け出せません。故障する前に計画的に手を打つ方法を調べるなかで、TBMという言葉を目にし、正確な意味を確かめたいという方は少なくありません。
本記事では、TBM(時間基準保全)の意味と予防保全における位置づけ、CBM(状態基準保全)・事後保全との違いを整理します。あわせて、TBMが求められる理由でもあるメリットと運用時の注意点、現場に定着させる方法までを解説します。
読み終えるころには、自社のどの設備をTBMで管理すべきか、判断の手がかりをつかめるようになれば幸いです。
目次TBM(時間基準保全)とは
TBM(Time Based Maintenance)とは、設備の状態ではなく、稼働時間や経過期間など、あらかじめ決めた周期を基準に点検や部品交換を行う保全方式のことです。日本語では時間基準保全と訳されます。「1,000時間ごとに給油する」「半年ごとに点検する」のように、時間を物差しにして保全のタイミングを決めることが特徴です。
設備を構成する部品のなかには、使用時間の経過とともに摩耗や劣化が進み、故障しやすくなっていくものがあります。こうした部品に対して、経年劣化で故障率が上がる前に手を打つことがTBMの基本的な考え方です。
なお、TBMと予防保全(PM:Preventive Maintenance)は同じ意味ではありません。予防保全は故障を未然に防ぐという大きな考え方であり、その中の代表的な手法の1つがTBMという位置づけです。保全の周期は、メーカー推奨値がある場合はそれを出発点にして、自社の稼働実績や故障履歴で検証していく形になります。
また、製造現場では同じTBMという略語を、作業開始前に作業内容や危険箇所を確認し合うツールボックスミーティング(Tool Box Meeting)の意味で使う場合もあります。本記事で扱うTBMは時間基準保全であり、安全活動のTBMとは別の用語です。
予防保全におけるTBMの位置づけ
設備保全は、故障の前に手を打つか、故障が起きてから対応するかで、大きく2つに分けられます。故障が起きる前に点検や部品交換を行うのが予防保全、故障が起きてから修理して機能を回復させるのが事後保全です。
予防保全は、実施するタイミングの決め方によってさらに分かれます。その代表が、あらかじめ決めた周期で実施するTBMと、センサーや点検のデータから設備の状態を評価し、劣化の兆候が見えた段階で実施するCBM(状態基準保全)の2つです。
つまり、TBMは、予防保全をどのタイミングで実施するかという問いに対する答えの1つです。この位置づけを押さえておくと、「この設備は時間を基準に管理するのが合理的か、状態を基準にするのが合理的か」という視点で保全方式を検討できるようになります。
TBMが向いている設備・部品
TBMが向いているのは、劣化が時間や使用量に応じて進む消耗部品・消耗品です。ベルトやフィルター、潤滑油などの油脂類が典型例で、使用にともなって摩耗や汚れ、性能低下がほぼ確実に進むため、周期を決めて交換する管理と相性が良い対象です。
劣化を目視では判断しにくくても、交換周期を設定できる部品もTBMの対象になります。分解しないと状態を確かめられない内部の部品が代表例です。状態が見えないからこそ、時間を基準に交換時期を決めておくことで、交換の判断に迷いにくくなります。
生産の都合で設備を止められる時間が限られている場合には、あらかじめ決まった計画停止の時間に周期交換をまとめられることが、TBMを選ぶ理由になります。ただし、停止の影響が大きい重要設備では、状態を確かめながら保全時期を判断するCBMが適する場合もあるため、「止めにくい設備だからTBM」と単純には決められません。
代替手段を確保できる設備や、故障したときの影響が比較的小さい設備・部品も、TBMの候補になり得ます。選ぶ基準は、同じ時期に交換をまとめて手配や作業を効率化できるなど、定期交換を計画に組み込む便益があるかどうかです。影響が小さいだけであれば、故障してから直す事後保全で十分なこともあります。
なお、法令で点検や検査の周期が定められている設備は、TBMとは区別して考える必要があります。例えば、第二種圧力容器に該当する空気タンクには、使用開始後、原則として1年以内ごとに1回の定期自主検査が義務付けられています。こうした設備では法定の周期を守ることが大前提であり、自社の判断で延ばすことはできません。
対象を選ぶときは、「劣化の進み方を時間で見積もれるか」「周期で交換することに便益があるか」の2点で確認すると、TBMに向く設備・部品を絞り込めます。
TBMとCBM・事後保全との違い
TBM、CBM、事後保全の違いは、保全を行うタイミングをどう決めるかにあります。TBMは決めた周期で、CBMは設備の状態で、事後保全は故障が起きてから、それぞれ保全を実施します。3方式の違いを以下の表に整理しました。
項目/保全方式 | TBM(時間基準保全) | CBM(状態基準保全) | 事後保全 |
|---|---|---|---|
保全のタイミング | 決めた周期(時間・期間) | 設備の状態データ | 故障発生後 |
必要な仕組み | 周期表・点検記録 | センサー・計測機器 | 復旧体制・予備品 |
向いている設備 | 劣化が周期的な消耗部品 | 停止影響が大きい重要設備 | 故障の影響が小さい設備 |
注意点 | 過剰保全になる可能性がある | 導入コストがかかる | 突発停止のリスクを抱える |
表に整理した3方式は、実務ではどれか1つに統一するのではなく、設備ごとに使い分けることが現実的です。判断の軸になるのは、設備の重要度と、故障したときの影響の大きさです。
停止すると生産や安全への影響が大きい設備には費用をかけてでも状態を監視する価値があり、劣化のペースが安定している消耗部品なら周期管理で十分に対応できます。反対に、影響が小さく復旧も容易な設備まで手厚く保全すると、費用が効果に見合わなくなります。
自社の設備を重要度と影響度で並べ、どの設備にどの方式を割り当てるかを整理すると、3方式を無理なく併用できます。
TBMのメリット
TBMのメリットは、計画の立てやすさ、始めやすさ、突発故障リスクの低減の3つに整理できます。
保全計画と予算を立てやすい
保全を実施する時期が周期であらかじめ決まっているため、年間の保全計画を事前に立てられます。いつ、どの設備を止め、どの部品を交換するかが見えるので、人員の手配や生産計画との調整も進めやすくなります。
部品の手配や予算化にも見通しが立ちます。仮に、ある部品の交換周期を500稼働時間、設備の年間稼働を4,000時間とすると、年8回の交換が目安になり、部品の発注時期や年間の保全予算を具体的に組めます。
この数値は説明のための仮の例ですが、自社の周期と稼働時間を当てはめれば、同じ要領で年間の交換回数を見積もれます。
保全費が突発的にかかる費用から、計画に織り込める費用に変わるため、予算の承認を得るときの説明材料にもなります。
特別な計測機器がなくても始められる
TBMを始める段階では、状態監視用のセンサーや計測機器が必須とは限りません。設備・部品ごとの周期表と点検・交換の記録があれば運用を開始でき、CBMに比べて導入のハードルは低めです。
必要なのは、対象設備の洗い出し、周期の設定、実施記録の3つです。紙やExcelの管理でも始められるため、保全体制がまだ整っていない現場でも取り組みやすい方式です。
なお、運用が定着した後に、重要設備へセンサーによる状態監視を組み合わせ、TBMとCBMを併用していく進め方もあります。まずはTBMで保全の計画と記録の習慣を作ることが、その後の発展の土台になります。
突発故障のリスクを一定水準まで下げられる
周期が実際の劣化ペースに合っていれば、部品が寿命を迎える前に交換されるため、突発的な故障による計画外停止の減少が期待できます。停止が減れば、緊急の修理手配や生産計画の組み直しに追われる場面も少なくなります。
ただし、TBMだけで突発故障をゼロにできるわけではありません。決めた周期の途中で起きる偶発的な故障や、使用環境の変化による想定より早い劣化までは防ぎきれないためです。効果は周期の妥当性に左右されるため、故障履歴をもとにした周期の見直しとセットで運用することが前提になります。
TBMのデメリットと注意点
一方で、TBMには時間を基準にするからこその注意点があります。導入前に押さえておきたいのは次の3つです。
過剰保全になる可能性がある
TBMでは、設備の状態がまだ良好でも、決めた周期が来れば点検や交換を実施します。そのため、実際にはまだ使える部品を交換することになり、部品費や作業工数が必要以上にかかる可能性があります。
電気学会の用語解説でも、TBMの保全周期は設備を構成する部品のうち最も寿命の短い部品に合わせることになるため、一律の周期で保全を続けると過剰な保全になりやすいと指摘されています。周期が寿命の短い部品に引っ張られると、他の部品は寿命を残したまま交換時期を迎えやすくなるからです。
必ず過剰保全になるわけではありませんが、周期と劣化の実態のずれを放置すると、部品費と工数のムダは膨らんでいきます。重要度の低い設備まで一律に短い周期を適用していないかを確かめることが、過剰保全を抑える第一歩です。
周期の根拠に個人差が出やすい
保全周期の設定は担当者の経験に頼る場面が多く、判断基準が人によってばらつきやすい点にも注意が必要です。同じ設備でも「安全を見て短めにする」担当者と「実績を重視して長めにする」担当者がいると、設備ごとの周期に一貫性がなくなっていきます。
「前任者がこの周期にしていたから」という理由だけで周期が引き継がれると、劣化の実態とずれたまま固定化するおそれもあります。周期の長さそのものより、根拠が記録されておらず説明できないことが問題の本質です。
周期を設定・見直しするときは、メーカー推奨値があればそれも含めて、自社の稼働状況、故障履歴、交換履歴を照らし合わせて検証するのが基本的な考え方です。共通のデータを判断の物差しにすれば、担当者ごとの個人差を抑えられます。
ただし、法令や規格、安全上の最低条件が定められている場合は、それらを自社の判断で緩めてはいけません。データによる検証の対象は、自社の裁量で決められる範囲に限られます。
計画どおり実施できているかの管理が難しくなりやすい
TBMは計画を立てること自体は難しくありませんが、計画どおりに実施し続けることに難しさがあります。
設備の台数が増えるほど、部品ごとに周期の異なる保全予定が積み重なり、今月どの設備の何を交換するのかを把握するだけでも手間がかかるようになります。そこに突発故障の対応が重なると、予定していた周期交換が後回しになることも珍しくありません。
紙の点検表やExcelでは、予定と実施記録が別々の場所に分かれがちで、実施漏れや遅延に気づきにくくなります。周期表の在りかや更新方法を特定の担当者しか知らず、異動や退職をきっかけに管理が止まってしまうケースも起こりがちです。
計画倒れを防ぐには、周期と実施記録を一元的に管理し、漏れに気づける仕組みを作ることが欠かせません。その仕組みづくりの方法を、次で具体的に見ていきます。
TBMの運用を定着させる方法
TBMの運用を定着させるには、周期の管理、実施記録、周期の見直しの3つを仕組みにすることが重要です。
設備ごとの保全周期を一元管理する
まず、対象設備と部品ごとの保全周期を1か所にまとめます。設備台帳に部品名、周期、前回実施日、次回予定日をひも付けて、次にいつ何を実施するのかを誰でも確認できる状態にします。
周期表が設備ごと・担当者ごとにばらばらに存在すると、全体の予定を把握できず、実施漏れの温床になります。管理の形式は紙でもExcelでも構いませんが、「ここを見れば全設備の予定がわかる」という置き場所を1つに決めるところから始まります。
実施記録を保全計画とひも付けて残す
保全を実施したら、実施日、作業内容、交換した部品、作業中に気づいた異常を実施記録として残し、保全計画と同じ場所で管理します。計画と実績が並んでいれば、予定日を過ぎても未実施の設備がひと目でわかり、遅延への対応を早められます。
記録は、後から周期を見直すときの判断材料にもなります。交換時の部品の状態や小さな異常のメモが蓄積されているほど、いまの周期が適切かどうかを実績で検証できるようになります。記録を書いて終わりにせず、計画とつないで振り返りに使える形で残すことがポイントです。
故障履歴をもとに周期を定期的に見直す
最初に設定した周期が、ずっと最適であり続けるとは限りません。稼働時間や使用環境が変われば劣化のペースも変わるため、故障履歴と交換履歴をもとに、周期を定期的に見直します。
見直しの際は、次の4点を確認すると、周期と実態のずれに気づきやすくなります。
交換した部品に余寿命(まだ使える寿命)が大きく残っていないか
周期が来る前の故障が繰り返されていないか
稼働条件や使用環境が変わっていないか
故障の影響が大きい設備は、CBMの併用を検討すべきか
余寿命が残り続けるなら周期を延ばす、周期前の故障が続くなら周期を短くするか原因を調べる、というように、確認した結果を周期の修正に直結させます。ただし、法令で定められた点検や、安全上の理由でメーカーが守るよう求めている条件は、この見直しの対象外です。メーカー推奨値から周期を変えるときも、故障履歴などの根拠をそろえた上で判断します。
TBM(時間基準保全)を理解し、計画的な設備保全を進めよう
TBM(時間基準保全)は、稼働時間や経過期間など、あらかじめ決めた周期を基準に点検や部品交換を行う、予防保全の代表的な手法です。周期を基準にするからこそ保全計画と予算を立てやすく、特別な計測機器がなくても始められる一方、周期が実態とずれると過剰保全や突発故障につながる注意点もあります。
すべての設備をTBMで管理する必要はありません。設備の重要度と故障の影響に応じて、CBMや事後保全も含めた使い分けを考えることが現実的です。
まずは重要度の高い設備から、保全周期の一覧と実施記録の現状を確認しましょう。周期の根拠を説明できない設備や、実施状況を把握できていない設備が見つかれば、そこがTBMの仕組みづくりの出発点になります。





















