8枚の手順書を3分の動画に。製造業DXで工数削減を実現したボッシュの取り組み
2026.07.15
株式会社ボッシュの課題
成果
現場主導で動画マニュアル化を進めた結果、教育工数を大幅に削減しながら、作業員の習熟度向上も実現している。こうした取り組みの背景について、花田純一氏と神田吉教氏に話を聞いた。
1,000点を超える手順書と高齢化がもたらす「技能伝承」の限界

パワーソリューション事業部 製造部門SGM 寄居工場長 花田 純一様
ボッシュ株式会社の寄居工場は、ディーゼル燃料噴射装置の基幹部品である「ノズル」を製造する重要拠点だ。同工場がDXに踏み出した背景には日本の製造業に共通する2つの課題があったという。1つは膨大な紙による業務負荷と技能の属人化だ。
「寄居工場では長年、紙の手順書や帳票を大量に使用してきました。工場全体では数千枚にのぼり、手順書の種類だけでも1,000点以上あります。これらを削減することは、コストの問題にとどまりません。記入や確認にかかる作業時間を減らし、現場の負担を軽くしたいと思っていました。収益改善と現場の働きやすさ、この両方を同時に実現する必要がありました」(花田氏)

工場内で紙のマニュアルで作業方法を確認する従業員
2つ目は、技能伝承の難しさだ。現場の高齢化が進む中、ベテランの技術を次世代へどう引き継ぐかが大きな課題となっていた。
「従来の手順書は文章が中心で、重要なポイントは身振り手振りで補うしかありませんでした。文字や静止画だけでは、力加減や動きの速さといった『コツ』までは伝えきれません。その結果、伝えたい内容の6割程度しか理解されないこともあり、チームリーダー(LTO)やテクニカルオペレーター(TO)が長時間付き添って指導する必要がありました。写真を増やして対応しても、今度は手順書のページ数が増え、現場での確認作業がさらに煩雑になるといった悪循環に陥っていました」(神田氏)

パワーソリューション事業部 製造部門 Nz&LE製造部 製造1課 シニアスタッフ 神田 吉教様
このように、紙を前提とした管理には限界があった。情報量と伝達効率の両立が難しく、現場の負担も増していた。この状況を打開する手段として導入されたのが動画マニュアル「カミナシ 教育」だ。
現場を動かした「使いやすさ」と、二人三脚の伴走支援が決め手に

「カミナシ 教育」の導入にあたり、同工場が最も重視したのは「使いやすさ」だった。どれほど高機能でも、現場が自ら使いこなせなければ定着しないからだ。動画制作の経験がなくてもPowerPointを作成する感覚で編集ができ、AIで文字起こしも可能だ。
「導入の決め手は、現場のリアルな声です。私が統括をしている寄居工場だけでなく、東松山工場の製造部も協力し、多くの人に実際に触れてもらいました。その中で最も多かったのが『動画作成は難しいと思っていたが、実際は簡単だった』という声です。この作りやすさこそが現場浸透の鍵になると判断しました」(花田氏)
現場で導入を進めた神田氏も、操作のしやすさを実感している。「当初は動画の撮影や編集に抵抗がありました。しかしカミナシ 教育はスマートフォンやタブレットで撮影した動画をアップロードするだけで字幕(テロップ)が自動生成されます。そのため想像以上にスムーズに動画マニュアルが作れました」と振り返る。

「1分程度の短い動画であれば、撮影から動画作成まで2時間ほどで完成し、すぐに現場へ展開できます。この手軽さがあるからこそ、現場の負担を増やさずに知見を共有できると感じました」
さらに、カミナシ社のサポート体制も導入を後押しした。単なるツール提供にとどまらず、運用面まで伴走してくれる点が大きな安心材料だったという。
「定期的な打ち合わせでのアドバイスや他社事例の共有など、実務に即した支援が充実しています。また、チャットサポートの返信がとにかく早く、すぐに回答をもらえました。「こんな些細なことを聞いてもいいのだろうか」とためらうような内容でも、気兼ねなく相談できます。実際に不具合を報告した際、その時点ですでに解消されていたこともあり、そのスピード感には助けられました。
また、営業担当やサポート担当の方も常にこちらの立場に立って考えてくれる点が印象的で、自社の都合ではなく、ボッシュにとって最適な進め方を提案してくれました。このような関係性がDXを現場に根づかせるうえで大きな支えになっています」(花田氏)
導入成功の鍵は「スモールスタート」による段階的な展開
導入にあたって、ボッシュが取った戦略は一気に広げるのではなく、小さな規模から着実に進めることだった。
「各製造部にリーダーを置き、その下に5〜6名のユーザーを配置する形で、まずは小グループ単位で運用を開始しました。そこで生まれた成果を発表会を通じて共有し、徐々に横展開していきました」(花田氏)
一度に全体展開すると現場が混乱し、使われなくなるリスクがある。成功事例を積み重ねながら徐々に広げることで、現場の納得感と定着率を高めていった。

動画マニュアルや社内のお知らせなどを確認できる「Training Booth」を設置。従業員が働きやすい環境整備も進める。
導入から半年。8枚の手順書を3分の動画で分かりやすく表現
「カミナシ 教育」導入から半年。寄居工場の現場には、目に見える変化が表れている。紙の手順書だと、ポイントや注意点を丁寧に書こうとするほど枚数が増えていた。結果として読まれにくく、内容が浸透しづらかったという。

「動画マニュアルに置き換えたことで、8枚にわたる手順書も3分未満にまとめられ、工程全体の流れを直感的に理解できるようになりました。また、動画であれば理解できるまで繰り返し視聴でき、必要な箇所だけを見返すことも可能です。ページをめくる手間がなくなり、注意点を一目で把握できると現場でも好評です」(神田氏)
寄居工場では現在、紙の手順書に動画へアクセスできるQRコードを貼付し、作業員がタブレットから必要な情報をすぐに確認できる体制を整えている

8枚の紙マニュアルを動画へ。テキストではわかりにくい細かなニュアンスも動画で表現。
この成果は現場の意識にも変化をもたらした。デジタル化は「指示されてやるもの」から「自ら求めるもの」へと移行しつつある。
「現場から『この手順も動画にしてほしい』と、声が上がるようになりました。動画の有効性が実感され、業務を効率化する手段として受け入れられた結果です。短時間の視聴を繰り返すだけで作業を習得できるため、これまでリーダーが付きっきりで行っていた教育時間も大幅に削減できました」(神田氏)
さらに、この取り組みは「技能の蓄積」の面でも大きな意味を持っている。
「ベテランの技術はこれまで個人の経験に依存していましたが、動画として残すことで組織の資産になります。仮に退職があっても技能は失われません。この価値は非常に大きいと感じています」(花田氏)
「動画化は単なる記録ではなく、技能の再定義にもつながりました。例えば、作業を可視化することで、『どの作業が重要なのか』『どのような技術を教えるべきか』が整理されたため、教える側自身の理解も深まっています」(神田氏)
製造業の枠を超え、「カミナシ 教育」が技能伝承のグローバルスタンダードになることを期待

今後の展望を笑顔で話す花田氏と神田氏。
「カミナシ 教育」は、日本の製造現場や技能伝承をどのように変えていくのか。最後に、導入を検討する企業への考えと今後の展望を聞いた。
「勘や経験に頼る作業が多く、技能の引き継ぎに課題がある現場には、特におすすめのサービスだと思います。また、製造業以外でも活用できるのではないでしょうか。例えば、医療や介護、保育の現場でも、緊急時の対応を動画で共有しておけば、いざという時に役立つはずです」(神田氏)
「私たちは以前から、カミナシさんのようなスタートアップ企業と連携しながら、スピード感を持って現場の改善に力を入れてきました。中でも寄居工場は、特に積極的に取り組んでいます。
また、当社は世界中に拠点を持ち、技術を共有する機会も多くあります。そのため、今後は寄居工場で培った現場改善のノウハウを海外拠点にも広げていきたいと考えています」(花田氏)
インタビューの様子を撮影した動画はこちら
※本内容は2026年4月現在のものになります。
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