現場主導のDXが国際認証取得を後押し。FSSC 22000取得を目標に、平均年齢50代の工場が歩んだ定着への道
2026.06.12
越後製菓株式会社
成果
新潟県の米菓メーカー、越後製菓株式会社の片貝工場では、製造三課 課長 相村氏を中心とするプロジェクトチームが現場主導でDXを推進し、「カミナシ レポート」の導入から約半年で包装ミスゼロという成果を達成した。背景には食品安全規格「FSSC 22000」の認証取得という会社全体の命題があり、現場改革と組織目標が重なり合うことでプロジェクトが加速し、その後カミナシシリーズの導入を決定。プロジェクトオーナーの工場長 小林(康)氏、プロジェクトリーダーの副工場長 片桐氏、メンバーの相村氏・製造三課 主任 小林(恵)氏・管理課 品質管理係 齊藤氏が、丁寧な土壌づくりを最優先にしながらDXを推し進めた軌跡を追う。

個人の思いと組織の使命が重なり、DXを再始動
越後製菓株式会社 片貝工場は、新潟県で米菓の仕込みから製造・包装・出荷までを一貫して行う拠点だ。常時300名弱が働き、売上規模は約60億円と業界屈指の規模を誇る。主力商品「ふんわり名人」は発売から20年目を迎え、韓国・アメリカ・中東など海外にも輸出される看板商品となっている。

同工場では10年以上前にタブレットの導入を試みたことがあったが、「紙に書くか、タブレットに書くか」というだけの違いにしかならず、使いこなせないまま現場への定着には至らなかった。その後しばらくはデジタル化に踏み出せない状況が続いたが、2024年に入り再びDX推進の機運が高まることになる。きっかけの一つは、ITの知見を持つ相村氏が片貝工場へ異動してきたことだった。
相村氏は以前から、デジタル化が遅れた職場環境が若手スタッフの離職につながっていると肌で感じていた。「体制が古い」「情報共有が遅い」という理由で人材が定着しない状況を目の当たりにするなかで、DXを通じた職場環境の改善が急務だという確信を強めていた。片貝工場への異動はその思いを実現する絶好の機会となり、「この異動を機に、新しいことに挑戦してみよう」と決意を固めた。
もう一つの大きな背景は、会社全体としての命題だった。副工場長 片桐氏は、基幹システムへ製造実績を効率よく連携させることを目的に、デジタル帳票の導入を検討していた。包装ラインでは賞味期限の印字ミスや包材の種類・内容量の間違いも発生しており、こうした課題の解消にもデジタル化が有効だという期待もあった。加えて、会社として米菓の海外輸出を強化する方針のもと、食品安全システムの国際規格「FSSC 22000」の認証取得が組織全体の目標として掲げられていた。
片桐氏は「FSSC 22000」の要求事項を精読する中で、デジタル帳票による商品管理が品質管理の質を高めるとともに認証取得にも有利であると確信を深めた。「現場の『変えたい』という気持ちと、組織としての大きな使命が重なり合い、DXを本格的に進める決断に至りました」と片桐氏は振り返る。
得意分野を持つメンバーが集結。段階的な体制整備でプロジェクトを始動
プロジェクトは、明確な役割分担のもとで発足した。工場長の小林氏がオーナーとして経営層との橋渡しを担い、片桐氏がリーダーとして全体の進捗管理・報告・メンバー間の調整を統括。帳票の作成と現場への操作教育は、業務に精通し現場からの信頼も厚いラインの小林 (恵) 氏が担い、現場スタッフへの周知とサポートは相村氏が受け持った。品質管理の視点からは齊藤氏もメンバーに加わり、それぞれの強みを生かした多面的な体制が整えられた。
現場への配慮も徹底して行った。片貝工場で働くスタッフの平均年齢は50代前後で、新しいデジタル機器への抵抗感が根強く残っていたという。こうした状況を踏まえ、いきなり本格運用するのではなく、「デジタルに慣れる期間」を2段階に分けて設けるという方針とした。
第1フェーズでは、まず共有タブレットを現場に設置し、約2週間にわたって自由に触れる環境をつくった。試しに帳票を1枚入れておくと、最初に操作したスタッフの様子を見た別のスタッフが興味を持ち始め、写真撮影や落書き機能を試してみるなど、タブレットへの抵抗感が自然と薄れていくという嬉しい変化が生まれた。
並行して相村氏は「FSSC 22000」認証取得の観点から「記入漏れがあると承認が通らないこともある。デジタル機器を使って精度を上げていく必要がある」と現場スタッフへ丁寧に説明し、導入の目的と必要性への理解を着実に醸成していった。
その後、操作説明会も実施したが、すぐに本番運用には移行しなかった。本番運用を前に、本番用のデジタル帳票を用いた第2フェーズの試用期間をさらに2週間設けた。小林(恵)氏は動画を用いた操作資料を自ら作成し、現場スタッフが迷わず操作できるよう丁寧に対応した。この2段階の「慣れる期間」を経ることで、スタッフ全員が安心した状態で本格導入を迎えることができた。
当初のプロジェクトスケジュールからは遅れが生じ、片桐氏自身も焦りを感じる場面があったという。しかしチームで協議を重ねた末、計画を遅らせてでも現場の理解と協力を得ながら丁寧に進めることを優先する判断を下した。「今振り返っても、その判断は間違っていなかった。しっかりと土壌ができた上でのスタートだったからこそ、現場の意識がDXに向き、スムーズに運用できている」と片桐氏は語る。
経営層・システム管理者への合意形成。粘り強いアプローチで壁を突破
プロジェクト推進上の最大のハードルは、経営層とシステム管理者からの合意を得ることだった。当初、経営側は「基幹システムとの連携」を導入条件として求めた。しかし検討を重ねるうちに、その条件を前提とすると現場が容易に修正できないシステムになり、かえって現場の負担が増えるという懸念が膨らんでいった。
片桐氏は組織教育と品質管理の両面から、説得を根気強く重ねた。まず組織教育の観点として、「現場が中心となって仕組みをつくることは、組織を育てる教育にもなる」という点を丁寧に説明した。さらに品質管理の観点でも「FSSC 22000」の要求事項を一つひとつ読み解きながら、「この工程は紙だと後から書き換えが可能で、信頼性を証明できない」「デジタルで自動記録すれば審査が通りやすい」など、具体的なリスクと根拠を繰り返し経営側に提示していった。こうした粘り強いアプローチが最終的に実を結び、現場主導でのカミナシ レポート導入が承認された。
包装ミスのゼロとFSSC 22000認証取得を同時に達成
「カミナシ レポート」は、包装工程の2ラインで運用されている。包装完了後の正しい写真をタブレット画面に表示し、ライン上の商品と必ず見比べながら確認動作を行う運用だ。以前は指示書を開いてチェックするよう伝えていたが、作業に慣れてくると確認が省略されてしまうケースがあった。タブレットを用いた確認動作を業務フローに組み込んだことで、こうした慣れに起因するヒューマンエラーは大幅に減少し、導入後約半年間で包装ミスゼロという成果を達成した。
現場での定着においては、若手従業員が大きな役割を果たした。小林(恵)氏と年齢の近いメンバーを中心としたグループがテスト帳票への積極的なフィードバックを重ね、「こういう形にできない?」「こっちの方が見やすいよ」という忌憚のない声をもとに帳票が磨き上げられた。若手スタッフの中には自ら操作方法を習得し、周囲に教える役割を担う者も現れた。操作に不慣れな場合でも周囲のスタッフに確認し合う動きが自然と生まれ、相互に助け合う文化として現場に根付いている。
「FSSC 22000」の認証審査では記録の信頼性が厳しく問われる。特に時刻を記録する工程では、紙の帳票だと後から記入できるため、審査員から信頼性が低いとみなされやすい。デジタル化による時刻の自動記録という仕組みにより記録の客観的な信頼性が担保され、審査員から「カミナシが入っていれば大丈夫ですね」という評価を受け、2025年8月に「FSSC 22000」の認証取得を無事に達成し、全社員が喜びに沸いたという。

DXがコミュニケーションの活性化をも生む。国籍・経験を超えた現場を目指して
同工場では、本インタビュー後の2025年末より『カミナシ 従業員』『カミナシ 教育』の利用も開始。現在は業務連絡や作業手順の変更といった『現場への周知』に活用されており、情報伝達のスピードと確実性が大幅に向上した。今後は休暇連絡の電子化など、さらなる利便性向上へ向けた機能拡張も予定している。また、工場全体のDXをさらに加速させるため、『カミナシ 設備保全』の導入も推進中だ。
DXに取り組み始めてからの変化として、工場長の小林氏が挙げるのが工場内外のコミュニケーションの増加だ。「DXツールがあると、むしろそれを起点にコミュニケーションが生まれる。積極的にしていかなければならないと感じるようになった」と、デジタル化が人と人のつながりを促進するという予想外の効果を実感している。
今後の目標として副工場長の片桐氏は「国籍や経験を問わず、誰もが同じレベルで商品をつくれる状態」を掲げる。スタッフの多国籍化が進む中、言語や経験の壁を超えて安定した製造を維持するためにDXは不可欠な手段だという認識だ。現在の進捗は率直に5%程度と認めつつも、3年後の達成を目指して現場との対話を続けている。
工場長の小林氏自身も15年ほど前に別の工場でタブレットを使った在庫管理に挑戦し、うまくいかずに断念した経験を持つ。その失敗を踏まえて今回辿り着いた結論は、「トップダウンではなく現場主導で進め、管理者はその行動を全力で支援していく」というスタイルだ。このアプローチはDX推進にとどまらず、従業員のモチベーション向上にも波及しており、「こういう資格を取りたい」という声が現場から上がるなど、自発的な成長の動きが生まれている。現場の声を起点にしたDXの推進は、片貝工場の文化そのものを変えつつある。
※本記事に記載されている役職、および活用製品をはじめとする各種情報は、2025年10月のインタビュー当時のものです。


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