属人化された技術を写真とデータで次世代へ。スモールスタートと丁寧な土壌づくりで現場DXを定着させた軌跡
2026.07.28
株式会社ジェイテクト 国分工場の課題
成果
自動車関連部品の製造・販売を手掛ける株式会社ジェイテクト 国分工場では、現場担当者たちが「技術伝承」の目標を掲げ「カミナシ レポート」の導入を推進している。
SDGs推進を起点に社内でペーパーレス化の機運が高まる一方、現場では抵抗感が根強く残っていた。そこでプロジェクトを主導した第2製造部 田中氏は、少人数からのスモールスタートと1ヶ月間のアイドリング期間という現場にあった進め方を選択。第1製造部 多賀氏、製造技術部 金光氏、佐々木氏とともに、ひな形の丁寧な作り込みを通じて業務標準化とスキルアップの好循環を生み出した。

DXが進まなかった過去を乗り越え、DXに再挑戦
株式会社ジェイテクトは、ステアリングシステムや駆動部品をはじめとする自動車関連部品の製造・販売を手掛けるトヨタグループの一員だ。国内に12の製造拠点を展開し、国分工場では自動車・産業機械・航空機・鉄道などに使用される軸受の製造を主に担っている。従業員数は855名(2025年11月現在)を数える。
同社でDXへの意識が高まり始めたのは、今から6年ほど前のことだ。持続可能なモノづくりを目指すSDGs推進の流れの中で、温室効果ガス排出の低減や技術革新・デジタル化への取り組みとして、まずはペーパーレスを推し進めようという機運が社内に生まれた。2024年には社内IT部の主導で、社内開発のデジタルツールをイントラネット上に公開する「デジタル祭り」という取り組みも始まった。
しかし、現場の反応は当初から厳しかった。製造技術部 金光氏は「変化への恐れや、体に染み付いている従来のやり方を続ける方が楽という意識が非常に大きかった」と振り返る。第1製造部の多賀氏も「DXとは何だ?というのが生産課の率直な感想だった」と語る。デジタル化の波が社内に押し寄せていても、現場の意識はなかなか変わらなかった。
その一方で、現場では別の切迫した課題が浮かび上がっていた。世代交代のたびに点検の手法や技術が失われていくリスクだ。多賀氏は現場に入って約20年のキャリアを持つが、以前から「この作業要領書を見ただけで、みんなが同じようにできるのだろうか」という疑問を抱いていたという。点検業務への関心の有無にかかわらず、「ここは必ず確認しなければならない」というポイントを標準化するためには、時代に合ったデジタルの形で記録・伝承していく必要があるという確信が、現場担当者の間でじわじわと広がりつつあった。
加えて、紙帳票の運用には現実的な問題もあった。保管場所の不足、必要な記録を取り出す際の工数増大、そして担当者の休暇中にトラブルが発生して、やむを得ず担当者に連絡するケースも過去には起きていた。属人化が極まると「担当者がいないので設備を止めざるを得ない」という事態を招くリスクもあった。こうした積み重なる課題を背景に、「手書きのままではリスクが大きい」という声が現場でも上がり始め「カミナシ レポート」の導入を決めた。

「人選」と「スモールスタート」が定着を加速させた
「カミナシ レポート」を知るきっかけとなったのは、2024年末頃にグループ会社の導入事例が社内のポータルサイトに掲載されていたことだ。そこから具体的な検討を開始し、各係のチーフリーダーの中からDXに興味のある3名を選出、製造技術部の金光氏にはサポート役として加わってもらう体制を整えた。
導入対象は、ころ生産課の「ヘッダー係」と「研磨係」という2つの係だ。まず金光氏が各係に「社内でのデジタル祭りが始まっているし、デジタルツールを使ってみないか」と声をかけて回った。反応の良かったヘッダー係から設備点検の帳票記録に「カミナシ レポート」を導入し、その後研磨係へと展開するという段階的なアプローチを採った。全員を一斉に巻き込むのではなく、前向きな人材から始めるスモールスタートが、現場への無理のない定着を生んだ。
正式運用前には1ヶ月間のアイドリング期間も設けた。ミーティングルームにタブレットを置き、誰でも自由に触れる環境をつくることで、どのメンバーが抵抗なく使えそうか、誰が強い興味を持っているかを把握する場としても機能した。田中氏がスモールスタートを選んだ理由の一つは、この期間で現場の温度感を丁寧に見極めることにあった。
試験的な導入を開始したのは2025年2月、そして正式運用がスタートしたのは同年4月と、導入から定着まで約2ヶ月での展開を実現した。現場からの反発を懸念していたが、実際には意外なほどスムーズに受け入れられた。多賀氏は「世の中全体がDXに向かっているという自覚が各自にあったことと、スマートフォンが身近にある時代なので、馴染みやすかったのだと思う」と分析する。田中氏も、カミナシ レポートのUIが普段使うスマートフォンのアプリに近いデザインであることが、抵抗感の低さにつながったと見ている。
ひな形を丹念に作り込むことで教育の効果も
一連のプロジェクトの中で、多賀氏が最も時間と労力を費やしたと語るのが、設備点検用のひな形作成だ。これまでも現場での口頭・実演による教育は行われてきたが、実際にはスタッフ全員が同じ水準でできているとは言い難い状況があった。そこで、ひな形には項目ごとに写真を添付し、「ここをしっかり確認してください」という確認ポイントを明記することで、誰が見ても同じ判断・同じ動作ができる形に仕上げた。
写真一枚の撮り方にも徹底してこだわった。確認ポイントが伝わりやすい角度を追い求め、何度も撮り直しを繰り返した。この地道な作業が、現場への定着と業務標準化の基盤となった。
完成したひな形を使った教育の効果はすぐに現れた。「作業内容がわかりやすくなった」という声が上がるとともに、「今まで、やり方は逆だと思っていました」と、長年続けていた作業の誤りに気づいたという報告もあった。また、新任メンバーの配属時教育にもひな形が活用され、教育の効率と品質の向上にも寄与した。

リアルタイムな報告が現場の意識と監督者の判断を変えた
「カミナシ レポート」の導入は、現場の情報伝達のあり方そのものも変えた。以前は軽微な設備異常が発生しても、紙ベースの管理では承認や紙の回収などに時間と労力がかかり、監督者に情報が届くまでにタイムラグが生じていた。現場の担当者がその場で対処することも多く、監督者が状況を把握して修理依頼の判断を下すことが難しかった。
デジタルで記録・報告できるようになったことで、チョコ停の情報がリアルタイムで監督者のもとに届き、緊急性の判断が格段にスムーズになった。その結果、設備停止時間を月間3〜5%、時間にして約30時間削減することに成功した。
さらに、金光氏が変化として挙げるのが「現場スタッフの意識の変化」だ。以前は現場スタッフから改善の要望を口頭で伝えても監督者が忘れてしまうなど、改善までに時間がかかっていたという。それが積み重なることで、チョコ停が頻発しても報告があがってこないケースも発生していた。。しかし、カミナシの運用が始まり写真や文書として記録に残せる仕組みになったことで、「言っているのに変わらない」という閉塞感が解消され、現場のマインドが前向きな方向に変化したという。監督者側も「記録が残ることでタスクのクリアを確認できる達成感が生まれ、改善への意欲が高まっている」と金光氏は評価する。
帳票の見直しが業務スリム化を生み、スキルアップの好循環へ
定量的な成果としては、月約135枚の紙帳票削減を実現したほか、帳票の倉庫への持ち運びや取り出し・確認にかかっていた工数が月約10時間削減された。
帳票移行のプロセスは、単なるデジタルへの置き換えにとどまらない業務改善の契機にもなった。複数の紙帳票を一つに統合したり、「昔からやっているから」という理由だけで続けていた不要なチェック項目を洗い出して削除したりと、情報の細分化を通じた業務のスリム化も進んだ。30ある帳票のうち17程度の移行が完了しており、残りの帳票も順次デジタル化を進めていく方針だ。
多賀氏が特に手応えを感じているのは、定量的な成果以上に、現場スタッフのモチベーションとスキルの向上だ。「紙をなくすことも目的の一つではあるが、一番良かったのは、みんなが点検に積極的に取り組むようになり、その結果としてスキルアップにつながったことだ」と多賀氏は語る。全員が同じ視点で設備を確認できる状態になったことで、作業の平準化という点でも大きな前進があったと評価している。
田中氏は今後の展望として、現在は記録と集計にとどまっているカミナシ レポートのデータを本格的に分析し、経営にインパクトを与えられるアクションへとつなげていくことを目指している。金光氏は「今はデータを貯める時期。だからこそ、いち早くひな形のデジタル化を進めることが重要だ」と語り、基盤構築への意欲を示す。若い人材にもDXに積極的に触れてもらい、現場全体でデジタル化をさらに加速させていくというのが、チームの共通した展望だ。
※本記事に記載されている役職、および活用製品をはじめとする各種情報は、2025年10月のインタビュー当時のものです。
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