「人・設備・お客様」を大切にする文化を具現化。現場主導の設備保全DXの軌跡
2026.02.16
株式会社ミヤジマの課題
成果
建設機械や鉄道車両に使用される重要部品の鍛造・熱処理・切削加工を手がける株式会社ミヤジマ。同社の生産現場を支えるのは、長年にわたり稼働を続ける多様な設備群である。しかし、その保全業務は熟練技術者の経験と勘に大きく依存しており、技術継承や情報共有の属人化が顕在化していた。こうした課題を解消し、設備保全の標準化と効率化を実現するため、同社は『カミナシ 設備保全』および『カミナシ レポート』を導入した。本稿では、代表取締役の宮嶋俊介氏、製造部次長の水弘士氏、技術営業部リーダーの大西孝氏に、導入の背景、運用の実際、そして今後の展望について話を聞いた。

会社の命綱である「設備保全」。現場が直面していた属人化の壁
株式会社ミヤジマは、鉄を加熱・成形する「鍛造」を事業の中核に据え、建設機械のシャフトや鉄道車両部品など、社会インフラを支える重要部品を製造している。工場内では、材料を加熱するヒーターや鍛造用ハンマー、プレス機、熱処理炉、工作機械など、数多くの設備が稼働している。
「当社の事業は鍛造がすべての起点です。鍛造を経ない製品は基本的に存在しません。お客様の要望に応じて、鍛造から熱処理、切削加工まで一貫して対応しています」(大西氏)

多工程を支えるこれらの設備は、まさに会社の「命綱」である。中にはドイツ製の機械や中古で導入した特殊仕様の設備も多く、保全作業には高い専門性が求められる。そのため、日常的な設備点検やメンテナンスは事業継続に直結する重要業務である。
しかし、その運用には長年にわたり「属人化」という課題が存在していたと、製造部次長の水氏は振り返る。
「弊社には保全部門がなく、現場のメンバー全員で修理や保全を行っています。そのため、熟練者と新人との間に大きなスキル差が生じていました。これが長年の課題でした」(水氏)
これまでの点検・管理はすべて紙の帳票で行われてきた。記録には文字情報が中心で、実際の作業ノウハウや判断基準までは共有されない。その結果、修理対応は「知っている人」に依存せざるを得ない状況が続いていた。
「紙での管理では、記録を見ただけでは設備の状況を詳細に把握することが難しいため、どうしても特定の人しか修理や業務判断ができない状態になります。新入社員に『やってみて』と指示しても、前提となる情報がないので対応できません」(水氏)
この「知っている人」と「知らない人」の差は、現場のコミュニケーションにも影響を及ぼしていた。
「新人が点検を行う際、先輩社員の指示が『あそことか、こことか』のように曖昧になってしまうのです。部品の正式名称や位置を正確に把握できていないため、知識が属人的になっていました。さらに紙の帳票では、管理職のサイン漏れが発生し、品質会議で指摘を受けることもありました」(大西氏)
同社では改善に向け、一般社団法人 日本鍛造協会が主催する研修への参加や社内勉強会の開催などを重ねてきた。日本鍛造協会では鍛造技術に関する人材育成や調査研究を行っており、その一環として定期的に発表会やセミナーなどを行っている。しかし、鍛造設備は企業ごとに仕様が異なり、特に同社が保有する特殊機械のノウハウは外部では習得できない。こうした属人化は、設備保全業務の標準化を妨げ、突発的な生産停止という経営リスクに直結していた。計画的な「予防保全」へと移行するためにも、知識を組織的に蓄積・継承する仕組みの構築が急務となっていた。

現場の「実現したい」が経営を動かす。決め手は保全業務への特化と「分かりやすさ」
深刻化する技術継承の課題に対し、変革の契機となったのは、同社会長が偶然目にした新聞記事だった。そこには、カミナシが他社の品質管理を支援した事例が紹介されており、その内容に関心を持った会長が「自社でも活用できるのではないか」と声を上げたことが、導入検討の出発点となった。
当時、社内ではDX推進の一環として複数のツール導入が検討されており、宮嶋氏はその中から自社の課題解決に最も資するソリューションを慎重に見極めていた。
「会長からは日頃からさまざまなツールの情報が共有されます。その中で、本当に現場で活用でき、成果につながるものかを見極めることが重要です。導入するだけでは意味がなく、運用まで定着させなければ効果は出ません。カミナシさんの提案も、最初はその一候補として検討を始めました」(宮嶋氏)
数ある選択肢の中でカミナシ導入を最も強く推進したのは、現場の実態を熟知する水氏だった。水氏は、カミナシが持つ「画像で記録・指示ができる」という機能に、属人化解消の糸口を見出したという。
「カミナシは、写真や動画で記録を残せるので明確に故障や修理が必要な場所を示せます。誰が対応しても同じ品質で点検でき、かつ対応方法も的確に指示できるようになる、つまり業務の平準化が実現できると確信しました」(水氏)
現場からの熱意ある提案は、経営の意思決定を動かした。宮嶋氏は、同社が掲げる経営理念「人・設備・お客様」の原点に立ち返り、導入を決断した。
「現場が『使いやすい』『画像で分かりやすい』と明確に利点を語るのを聞き、方向性を固めました。ものづくりにおいて設備の停止は致命的であり、予防保全は経営上の最重要テーマです。最後は『本当にやりきる覚悟があるか』と水に確認し、彼の決意を見て『やってみろ』と後押ししました」(宮嶋氏)
ミヤジマには、現場主導で改善を進める「まずやってみよう」という文化が根付いている。トップダウンではなく、現場が課題を起点に自ら選び取り、責任を持って推進する。このボトムアップの姿勢こそが、今回の導入を実現に導いた原動力となった。
最終的な決め手は、カミナシの「設備保全」に特化した専門性にあった。自社アプリを構築できる汎用ツールも候補に挙がったが、「何でもできる」よりも「必要なことを確実にできる」ことが評価された。
「自社アプリを構築できるツールは便利ですが、自社で設計・構築を行う負担があります。その点、カミナシさんは当社の最重要課題である設備保全に特化しており、会社のニーズとソリューションが完全に一致していました」(大西氏)
『人・設備・お客様』を経営の三本柱とする同社にとって、設備保全の最適化は事業継続の基盤である。その実現に寄与するカミナシは、ミヤジマにとって最良のパートナーとなった。

紙からシステムへ。現場主導で進む能動的な改善の芽
2025年6月に『カミナシ 設備保全』と『カミナシ レポート』を導入してから約3か月。全社展開が本格化して間もないが、「効果が見えるのはこれから」と水氏は冷静に見通す。現在は、紙による点検管理からシステム入力への移行に慣れることを最優先課題としている。
「まずは全機械の日常点検からスタートし、操作に慣れてもらうことに注力しています。ここでつまずいてしまうと運用が定着しません。今はそのための準備期間と位置づけています」(水氏)
導入時には、製造部全員を対象に説明会を実施。トップダウンでの強制ではなく、現場の課題を解決するツールとして導入意図を丁寧に伝えた。結果として、現場主導で帳票のひな形改良や運用方法の検討が始まり、前向きな改善活動が自発的に生まれつつある。
特筆すべきは、長年変わらなかった紙の点検項目をシステムに移行したことで、現場から「この項目も追加したい」といった提案が自然と上がってきた点だ。
「これまでの日常点検は、チェックを付けるだけの形式でした。しかし現場から『日々の気づきを残したい』という意見があり、コメント欄を追加しました。設備は毎日稼働する中で少しずつ傾きや異音などの変化が生じます。そうした小さな異変を、以前は朝礼などで口頭共有するしかありませんでしたが、カミナシに記録することができるようになったのです」(大西氏)
カミナシの導入によって、作業者は気づいた瞬間にスマートフォンで簡単に記録できるようになった。これは単なるチェックリストの電子化ではない。現場一人ひとりが保全活動に能動的に関与し、設備の変化を見逃さない意識へと変わり始めていることを意味する。
さらに、蓄積された情報は新たな活用の道を拓きつつある。
「例えば熱処理工程では、以前は2つの計測器の“温度差”だけを記録していました。今はそれぞれの温度を個別に入力し、グラフで推移を確認できるようにしています。これにより傾向管理が可能になり、品質管理の精度が格段に向上しました。お客様への説明資料としても大きな価値があります」(大西氏)
同社は長年にわたり、品質マネジメントシステム「ISO9001」を維持している。監査時にはこれまで紙資料を提示してきたが、今後はデータやグラフを用いて品質管理体制を明確に示すことができる。これは顧客からの信頼をさらに高める強力な根拠となる。
「万が一品質に懸念が生じた場合でも、過去データを正確に追跡できます。これはお客様に対する説明責任を果たすだけでなく、自分たちの仕事を守ることにもつながります」(大西氏)
まだ道半ばの取り組みではあるが、現場では確実に意識と行動の変化が芽生えている。個人の経験知が組織の形式知へと転換され、ものづくりの基盤を再構築する一歩が、確かに踏み出されている。

「人と設備」への投資が未来を創る。目指すはノウハウが生き続ける現場
カミナシの導入と定着は、単なるツール活用にとどまらず、ミヤジマの企業文化そのものを体現する取り組みである。宮嶋氏は「企業活力」という言葉を用い、その意義を次のように語る。
「製造業は地味な印象を持たれがちですが、だからこそ他社と異なる新しい挑戦を続けることが重要です。今回のカミナシ導入も、企業としての活力を高めるための一つの試みです。便利なツールを積極的に取り入れ、社員が生き生きと働く姿を発信していくことが、他社との差別化につながり、採用面にも良い影響をもたらすと考えています」(宮嶋氏)
宮嶋氏が語る「新しい挑戦」は、社外への情報発信にとどまらない。その本質は、「人・設備・お客様を大切にする」という同社の考えを、事業の根幹である設備保全の分野で具体的に実践することにある。この理念は、故障後に対応する「事後保全」から、計画的かつ先手を打つ「予防保全」へと移行するという強い意志として、現場にも深く浸透している。今回の『カミナシ 設備保全』および『カミナシ レポート』の導入は、まさに社長が描く理想像を現場主導で具現化する取り組みであり、経営と現場が同じ目的意識を共有して進めている点こそが、同社のDX推進を支える最大の原動力となっている。
そして、今後の展望について、大西氏は「カミナシを“知識の保管庫(ナレッジボックス)”として育てていきたい」と語る。

「鍛造業のノウハウは企業ごとに異なり、外部で学べるものではありません。これまで個人の経験として蓄積されてきた知識や修理記録を、写真・動画・文字でカミナシに残していくことで、未来の社員が同じ課題で悩むことがなくなります。過去の不適合事例などもデータ化すれば、品質会議での議論もより深まるでしょう。カミナシを、会社の技術と経験の集大成にしていきたいと考えています」(大西氏)
この「知識の保管庫」の構築は、単なる記録の電子化を目的としたものではない。蓄積されたデータを分析し、設備の稼働状況や消耗部品の交換サイクルを正確に把握することで、故障発生後に対応する「事後保全」から、計画的かつ先手を打つ「予防保全」への転換を図ることが真の目的である。カミナシは、その実現を支える中核的なデータ基盤として位置づけられている。
どのような企業にカミナシを勧めたいかとの問いに対し、水氏と大西氏は自社の経験を重ねながらこう語る。
「当社もまだ設備保全のレベルは決して高いとは言えません。ようやくスタートラインに立った段階です。だからこそ、『これから保全体制を強化したい』『ノウハウの継承に課題を感じている』といった中小製造業には、大きな助けになると感じます」(水氏)
「DXの専門知識がなくても、カミナシの担当者が丁寧に導入を支援してくれました。操作はスマートフォンで完結し、特別な設備も不要です。我々のように“何もない状態”からでも導入できる手軽さは、大きな魅力です」(大西氏)
熟練者の経験や感覚といった「見えない資産」を、いかに次世代へ継承していくか。それは日本の製造業が共通して抱える課題である。ミヤジマの挑戦は、その解の一端を示している。現場主導で構築されつつある「知識の保管庫」は、やがて企業の競争力を支える確かな基盤となるだろう。


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