設備保全の費用を把握しようとすると、修理費は経理、作業時間は保全部門、停止の影響は生産部門と、必要な情報が部署ごとにわかれていることに気づきます。
帳簿の支出だけを集計しても、設備停止で失った利益は見えません。「自社の保全費は高いのか」「どこから削ればよいのか」と問われて、すぐに答えられずに困っている方は少なくありません。
この状態のまま外部の相場と比べても、高い・安いの判断はできません。なぜなら保全費の中身は、設備の構成や集計の条件によって大きく変わるためです。そのため、まず初めに行なうことは、費目の定義をそろえ、計画内コスト、計画外コスト、機会損失コストに分けて、自社の費用を把握することです。
本記事では、設備保全の費用の内訳と計算方法、自社の保全費を比較するための指標、費用を削減する進め方を解説します。保全の施策に投資するかを判断するときに使うROI(投資利益率)と回収期間も、試算例を交えて整理します。
なお本記事では、年間生産金額20億円、主要設備40台を持つA工場を例に、保全費の集計から比較、削減、投資判断までを一気通貫で計算していきます。各見出しの試算例はすべてA工場のものとして進めるので、最後まで読むと、A工場の年間保全費の総額と、その削減余地が見えるようになります。
目次- 設備保全の費用とは
- 設備保全の費用の内訳
- 計画内コスト
- 計画外コスト
- 見落とされやすい「機会損失コスト」
- 設備保全の費用を計算する方法
- 人件費の計算
- 部品・材料費と外注費の計算
- 機会損失コストの計算
- 月間保全コストの試算例
- 自社の保全費を比較する指標と注意点
- 設備の再調達価額に対する保全費を確認する
- 生産金額に対する保全費を確認する
- 製造コストに対する保全費率を確認する
- 自社の履歴と設備別の差を確認する
- 設備保全の費用を削減する方法
- 重要設備から計画外コストを減らす
- 内製と外注の範囲を見直す
- 記録の定義をそろえて重複やムダを見つける
- ROIと回収期間を分けて投資判断につなげる
- 年間純便益とROIを計算する
- 投資回収期間を計算する
- A工場の年間保全費用は?
- 設備保全の費用を同じ定義で把握し、計画的に下げよう
設備保全の費用とは
設備保全の費用とは、生産設備や付帯設備の機能を維持し、故障や劣化に対応するために使う費用のことです。定期点検や部品交換にかかる材料費、保全担当者の人件費、点検や修理を外部に委託する外注費などが含まれます。
公的な調査でも、保全費の範囲は定義されています。日本プラントメンテナンス協会のメンテナンス実態調査では、検査や補修などに関する材料費、外注費、管理間接費などを「保全費」とし、保全費と維持更新費を合計したものを「総保全費」としています。
注意したいのは、この区分がそのまま自社の会計科目と一致しない場合があることです。社内で集計するときは、どの費目を含めたかを記録し、年度や工場が変わっても同じ条件で比較できるようにしておきます。
参考:2026年メンテナンス実態調査|日本プラントメンテナンス協会
ただし、支出として帳簿に残る費用だけが、保全の費用ではありません。設備が止まって生産できなかった損失は、請求書も仕訳も発生しないため、集計から抜け落ちます。保全費を経営の判断材料にするには、会計上の支出に加えて、停止によって失った利益も別枠で捉える必要があります。
なお、設備保全そのものの目的や保全方式の種類など、保全業務の全体像は、設備保全の基本を整理した記事で解説しています。
設備保全の費用の内訳
設備保全の費用は、発生の仕方に注目して、計画内コスト、計画外コスト、機会損失コストの3つに分けると整理しやすくなります。会計科目の分類ではなく、保全活動を管理するための区分です。それぞれの内容と例を、以下の表にまとめました。
分類 | 内容 | 主な例 | 管理するときの確認点 |
|---|---|---|---|
計画内コスト | 予算や保全計画にあらかじめ織り込める費用 | 定期点検、定期交換部品、消耗品、計画停止を伴う工事、点検の人件費 | 計画した金額・工数と実績の差 |
計画外コスト | 故障や異常で予定外に発生する費用 | 緊急修理、緊急外注、部品の特急手配、残業・休日出勤 | 故障した設備、原因、復旧時間、再発の有無 |
機会損失コスト | 設備停止によって得られなかった利益 | 生産停止、能力低下、納期遅延、再立ち上げ | 停止時間、影響した数量、限界利益、二重計上の有無 |
設備保全の費用の内訳
自社の保全記録がどの分類に当たるかを仕分けてみると、管理できている費用と、まだ見えていない費用がはっきりします。ここからは、それぞれの内容を順に説明します。
計画内コスト
計画内コストは、時期と内容を事前に決められる保全活動に使う費用です。定期点検、給油や清掃、消耗品の交換、周期を決めた部品交換、計画的な修繕などが該当します。自社の担当者が作業すれば人件費、外部に委託すれば外注費として表れます。
計画停止を伴う点検や修繕では、その間の人件費、外注費、部品・材料費を計画内コストとして記録します。停止による利益への影響もあわせて集計する場合は、機会損失コストと分けて記録し、同じ損失を二重に数えないようにします。
計画内コストが増えること自体は、悪い変化とは限りません。重要設備の点検や劣化部品の計画交換に費用を振り向けた結果として、緊急修理や設備停止の損失が減ることもあるためです。
計画内コストの削減を検討するときは、金額の増減だけでなく、計画外コストや故障件数が同じ期間にどう変化したかとセットで判断します。
計画外コスト
計画外コストは、突発的な故障や予期しない異常への対応で発生する費用です。交換部品や修理の外注費だけでなく、原因調査、部品の緊急手配、残業や休日出勤、復旧後の確認作業に使った工数まで含めて捉えます。
計画外コストの集計で注意したいのは、1件の故障にかかった費用が複数の記録に散らばることです。部品代は購買システム、外注費は会計システム、社内の作業時間は日報や作業記録に残ります。
設備を識別する番号と故障案件を識別する番号を共通のキーにしておくと、故障1件あたりの費用をまとめて追えるようになります。
計画外コストを集計する目的は、現場の責任を問うことではありません。繰り返し発生している故障や復旧に時間がかかる設備を特定し、点検内容や予備品、作業手順の見直しにつなげるための情報と位置づけます。
見落とされやすい「機会損失コスト」
機会損失コストは、設備の停止や能力低下によって、本来得られたはずの利益を失うことを指します。修理費のような支出を伴わず、請求書にも帳簿にも残らないため、保全費の集計から最も見落とされやすい費用です。
修理費がわずかでも、後工程を含むライン全体が止まれば、経済的な影響のほうがはるかに大きくなる場合があります。
影響額を概算する方法として、停止時間に時間あたりの生産金額を掛ける計算がよく使われます。ただし、生産金額には材料費のように、停止すれば発生しなかったはずの変動費も含まれています。生産金額をそのまま損失と見なすと、影響を過大に見積もることになります。そのため、基本の式では限界利益を使います。
機会損失コスト = 停止時間 × 1時間あたりの限界利益
限界利益とは、売上高から変動費を差し引いた金額です。1時間あたりの限界利益は、対象製品の限界利益を標準的な稼働時間で割るか、時間あたりの標準生産数量に1個あたりの限界利益を掛けて求めます。
限界利益 = 売上高 - 変動費
1時間あたりの限界利益 = 限界利益 ÷ 標準的な稼働時間
1時間あたりの限界利益 = 時間あたりの標準生産数量 × 1個あたりの限界利益
限界利益をすぐに算出できない場合は、まずは費目の範囲を固定した粗利益で計算し、使った費目を記録に残します。
納期遅延の違約金や廃棄、再検査、再立ち上げの追加費用は、実際に発生し、ほかの費目に含めていない場合に限って加えます。この条件を守ると、二重計上を避けながら、停止の影響を金額で示せるようになります。
参考:損益分岐点の計算方法と経営改善への活用|J-Net21
機会損失コストの計算例
例えば、コンプレッサーA号機が2時間停止した場合は、以下の流れ考えます。
このコンプレッサーの機会損失コスト4万円は、②の月間試算例の中の「機会損失コスト(94万円)」の内訳にあたります。
設備保全の費用を計算する方法
保全費の計算で最初につまずくのは、式ではなく集計条件です。計算を始める前に、期間、設備範囲、費目定義、データ元、分母の5項目を決めます。
例えば「2026年度のA工場の生産設備」「保全費には社内工数、部品、外注費を含み、設備の更新投資は含めない」のように固定します。決める内容とデータ元を、以下の表に整理しました。
そろえる項目 | 決める内容 | 主なデータ元 |
|---|---|---|
期間 | 月、四半期、年度のどれで集計するか | 会計期間、保全計画 |
設備範囲 | 工場、ライン、設備群のどこまでを対象にするか | 設備台帳 |
費目定義 | 人件費、部品費、外注費、間接費、維持更新費の扱い | 会計科目、購買記録 |
データ元 | どの記録を正とするか | 作業記録、会計、購買、生産実績 |
分母 | 比率計算に使う基準(RAV、生産金額、製造コストなど) | 固定資産台帳、見積もり、原価計算 |
設備保全の費用計算でそろえるべき項目
5項目のうち1つでも条件が変わると、比率の変化が保全活動によるものか、集計方法の変更によるものか区別できなくなります。条件を変えた月は記録に注記し、必要なら過去分も同じ定義で集計し直します。
人件費の計算
保全の人件費は、作業時間に時間単価を掛けて計算します。
保全人件費 = 作業時間 × 時間単価
作業時間の範囲は、あらかじめ決めておきます。点検や修理だけでなく、原因調査、部品の手配、記録の作成、現場間の移動、外注作業への立ち会いをどこまで含めるかで、金額は大きく変わります。時間単価も、給与だけを使うのか、法定福利費や間接費を含めた社内標準の単価を使うのかを統一します。
複数人での作業は、担当者ごとの作業時間を合計します。2人が2時間ずつ作業したなら、投入した工数は4人時です。このとき、設備が止まっていた2時間とは別の数字である点に注意が必要です。作業工数と停止時間は、別の項目として記録します。
部品・材料費と外注費の計算
部品・材料費は、その期間の保全作業で使った交換部品、潤滑油、洗浄剤、消耗品などの実費を集計します。
送料や特急手配の費用は、分けて記録しておくと、緊急対応がどれだけ割高になっているかを後から確認できます。金額は、購入した時点の額を使うのか、在庫から払い出した時点の額を使うのかで結果が変わるため、どちらかに決めておきます。
外注費は、定期点検のような定期契約と、突発修理や診断、工事などのスポット対応に分けて集計します。契約金額に出張費や部品代、夜間・休日の割増が含まれているかを確認し、部品・材料費との二重計上を避けます。
両方を集計したら、次の形で合算します。
部品・材料費と外注費 = 使用した部品・材料の金額 + 対象作業の外注費
1枚の請求書に複数設備の作業がまとまっている場合は、作業時間や部品の内訳、見積もりの明細など、毎回同じ基準で設備ごとに割り振ります。
機会損失コストの計算
機会損失コストの計算では、停止時間と1時間あたりの限界利益をそろえます。
1時間あたりの限界利益 = 対象期間の限界利益 ÷ 実稼働時間
機会損失コスト = 停止時間 × 1時間あたりの限界利益
計算どおりの損失が、常に発生するわけではありません。停止中に別の設備で代替生産できた場合や、残業で生産を挽回できた場合は、実際に失った数量まで割り引いて数えます。
反対に、能力低下で不良や再検査が増えた場合は、停止時間だけでは影響を表せません。良品数量の減少や追加作業の工数を確認し、根拠を残せる分だけ加えます。
停止の影響が複数の製品に及ぶ場合は、製品別の限界利益と失った数量で計算するほうが正確です。ただし、精密さを追いすぎて計算が続かなくなっては本末転倒です。まずは重要設備に対象を絞り、同じ方法で毎月続けることを優先します。
月間保全コストの試算例
ここまでの計算を、ある設備の1ヵ月分の仮の数値で通して試算します。金額は業界の相場ではなく、計算方法を示すための例です。
項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
保全人件費 | 2人 × 40時間 × 3,000円 | 24万円 |
部品・材料費 | 当月の払出額 | 18万円 |
外注費 | 定期点検・修理の請求額 | 12万円 |
機会損失コスト | 停止2時間 × 時間あたり限界利益20万円* | 40万円 |
合計(機会損失を含む) | 支出の小計 + 機会損失コスト | 94万円 |
月間保全コストの試算例
* 時間あたり限界利益20万円は、対象ラインの月間限界利益と実稼働時間から算出した例
見るポイントは、支出と機会損失の内訳です。会計上の支出に近い人件費、部品・材料費、外注費の合計は54万円(=24万円+18万円+12万円)ですが、機会損失コスト40万円を加えると、経済的な影響は94万円まで広がります。2つを分けて示すと、修理費を減らす施策だけでなく、停止時間を短くする施策も同じ土俵で比較できるようになります。
この94万円は、A工場が保有する重要設備40台のうち、コンプレッサー1台にかかる月間の保全費用です。次の見出しでは、この計算を工場全体・年間ベースに広げていきます。
なお、月ごとの金額は定期点検や大きな修繕の時期に左右されます。増えた・減ったの判断は、単月の数字ではなく、12ヵ月の累計や移動平均で傾向を見てから下します。
自社の保全費を比較する指標と注意点
まず大前提として、公表されている保全費率の目安は、情報源によって数%〜十数%と幅があり、業種・設備年齢・費目の含め方で大きく変わります。まずは自社の値を1回計算し、次にその値が自社の過去の推移や設備別の差の中でどう位置づけられるかを見る、という順番で使うと実務に落としやすくなります。
例えば、A工場の年間保全費が1,128万円、年間生産金額が20億円だった場合、生産金額に対する保全費率は1,128万円÷20億円×100で5.6%です。この数字だけでは高いか安いかは判断できませんが、後述するRAV比率や製造コスト比率と併せて見ることで、A工場の保全費の位置づけが立体的に見えてきます。
保全費の金額は、工場の規模や設備の台数が増えるほど大きくなります。規模の違う工場や年度をまたいで比べるには、金額そのものではなく、設備価値や生産金額などで割った比率を補助指標として使います。そのため、代表的な指標を以下の表にまとめました。
指標 | 計算式 | 主な用途 | 注意点 |
|---|---|---|---|
RAVに対する保全費率 | 年間保全費 ÷ 設備の再調達価額 × 100 | 規模の異なる工場・設備群の比較 | 簿価ではなく再調達価額を使う |
生産金額に対する保全費率 | 保全費 ÷ 生産金額 × 100 | 生産規模に対する投入額の推移 | 売価や生産量の変化でも比率が動く |
製造コストに対する保全費率 | 保全費 ÷ 製造コスト × 100 | 原価に対する保全費の社内推移 | 製造コストに含める費目を固定する |
計画外コスト比率(社内管理用) | 計画外コスト ÷ 保全費 × 100 | 突発対応への偏りの確認 | 機会損失を含めるかどうかを統一する |
保全費を計る際に用いる代表的な指標
どの指標にも、あらゆる工場に当てはまる適正値はありません。指標は外部との優劣を比べるためではなく、同じ定義で自社の推移と設備ごとの差を追い、変化の理由を保全履歴と突き合わせるために使います。
設備の再調達価額に対する保全費を確認する
設備の再調達価額(RAV:Replacement Asset Value)は、いま同じ機能の設備を調達し直すと仮定したときの価額を指します。設備保全と信頼性の専門団体であるSMRP(Society for Maintenance & Reliability Professionals)は、年間の保全支出をRAVで割った比率を、Maintenance Cost per RAVとして定義しています。
RAVに対する保全費率 = 年間保全費 ÷ 設備の再調達価額 × 100
参考:Best Practices, Metrics & Guidelines|SMRP
分母に簿価を使わないのは、帳簿上の価額が導入時期に左右されるためです。古い設備は減価償却が進んで簿価が小さくなり、比率が実態より高く出ます。簿価しか手元にない場合は、同等設備の見積もりなどから再調達価額を設定し直します。
もう1つの前提は、分母と分子の範囲を一致させることです。工場全体のRAVを分母にするなら、分子も同じ工場の対象設備にかかった年間保全費に合わせます。
生産金額に対する保全費を確認する
生産金額に対する保全費率は、生産活動の規模に対して、どれだけ保全費を投入したかを見る指標です。
生産金額に対する保全費率 = 保全費 ÷ 生産金額 × 100
日本プラントメンテナンス協会の調査では、製造品出荷額を分母とした保全費比率が集計されています。公開されている結果は業種によって差が大きく、平均値をそのまま自社の目標にはできません。
参考:2022年度メンテナンス実態調査概要|日本プラントメンテナンス協会
自社で使うときは、分母を製造品出荷額、売上高、生産高のどれにするかを固定します。値上げで生産金額が増えると、保全費が同じでも比率は下がって見えます。生産数量や稼働時間の推移もあわせて確認すると、比率が動いた理由を説明しやすくなります。
製造コストに対する保全費率を確認する
製造コストに対する保全費率は、製造原価の中で保全費が占める大きさを見るための、社内管理用の補助指標です。
製造コストに対する保全費率 = 保全費 ÷ 製造コスト × 100
分母に使う製造コストの範囲は、会社ごとに異なります。直接材料費、直接労務費、製造間接費のうち何を含めるかを、自社の原価計算のルールに合わせて固定します。保全費が製造間接費の中に含まれている場合でも、分析用に保全費を抜き出して分子に使えます。
気をつけたいのは、分母の違う比率を並べて比べてしまうことです。生産金額に対する比率と製造コストに対する比率では、同じ保全費でも数値が変わります。
外部資料の数値を参照するときは、分母が売上高、製造品出荷額、製造コスト、RAVのどれかを確かめ、自社と同じ定義のものだけを参考にします。
自社の履歴と設備別の差を確認する
比率を計算したら、外部の目安と1回比べて終わりにせず、自社の履歴と設備別の差を追いかけます。まず12ヵ月分を同じ定義で集計し、計画内コスト、計画外コスト、機会損失コストの推移を並べます。
設備別には、保全費率に加えて、故障件数、停止時間、復旧時間、計画外コスト比率も見ます。保全費率が高い設備でも、大きな計画修繕や更新を実施した年度なら、すぐに削減対象とは判断できません。
逆に保全費率が低くても、点検の先送りで計画外の停止が増えているなら、費用が足りていない可能性があります。
もし、計画外コスト比率が過去の自社水準より明らかに高まっている設備は、点検周期や予備品の見直し対象として優先的に検討しましょう。
判断を助けるのは、比率を動かした出来事の記録です。定義の変更、設備の増設、価格改定、大型修繕などを同じグラフや台帳に注記しておくと、数値の変化を後から説明できるようになります。
設備保全の費用を削減する方法
設備保全の費用削減で成果につながりやすいのは、予算の一律カットではなく、計画外の停止と重複した作業を減らすことです。重要設備、内製と外注、記録の3つの観点から見直します。
重要設備から計画外コストを減らす
すべての設備に、同じ水準の保全費をかける必要はありません。停止したときの生産への影響、故障の頻度、安全や品質への影響、代替設備の有無、復旧までの時間、部品の納期などから、設備の重要度を決めます。
重要度が高い設備から、点検の周期、部品の交換基準、予備品の持ち方、復旧手順を優先的に見直します。計画内コストが増えても、緊急修理と機会損失を含めた影響額の合計が下がるなら、経済的には合理的な選択といえます。
保全方式を見直す場合は、対象設備の故障の仕方と過去の履歴に合わせて選びます。周期を決めて点検・交換する方法は「予防保全とは?予知/事後保全との違いやデメリット、具体的な対策を紹介」、状態を監視して異常の兆候を捉える方法は「予知保全(予兆保全)とは?予防方法との違いやAIやIoTを活用した導入ステップを紹介」の記事でそれぞれ解説しています。
内製と外注の範囲を見直す
外注費を減らす目的で作業を内製に切り替えても、教育や資格取得、工具、移動や待機の時間まで含めると、年間の総額が下がらないことがあります。
反対に、頻度が高く手順を標準化しやすい点検は、外注を続けるより内製化したほうが効率的な場合もあります。繁忙期と閑散期で作業量が変わるなら、内製要員を抱えるコストと外注の対応枠も比べます。
切り分けの判断では、金額のほかに、必要な資格、作業の頻度、故障時の緊急度、専門機器の要否、メーカー保証、安全上のリスクを加味すると良いでしょう。法定点検や高度な診断、頻度の低い専門工事は外注に任せ、日常点検や清掃、給油は内製で回すといった分担が考えられます。
外注を続ける作業は、複数社の見積もりを取る前に、対象設備、作業範囲、部品、出張費、緊急対応、報告書、保証の条件をそろえます。条件をそろえてから金額を比べると、単に安い委託先ではなく、必要な作業範囲に見合った委託先を選べます。
記録の定義をそろえて重複やムダを見つける
保全費の削減を続けるための土台は、記録です。記録、比較、見直しの順で回します。
設備を識別する番号、作業日、計画内か計画外か、作業時間、部品、外注費、停止時間、原因を記録する
設備別に計画外コスト比率、故障件数、停止時間、同じ故障の再発を確認する
重複した点検、過剰な定期交換、繰り返している応急処置、使われない予備品を見つけて保全計画に反映する
最初から完璧な記録を目指すと、入力の負担で続かなくなります。まずは重要設備に絞り、費用の集計と改善の判断に使う項目だけを必須にします。
購買や会計、生産実績のデータと突き合わせる場合も、設備と案件を識別する番号をそろえておくと、転記や重複集計を減らせます。

ROIと回収期間を分けて投資判断につなげる
前述のA工場の年間保全費1,128万円のうち、計画外コストと機会損失コストの合計が大きな割合を占めているとします。ここに予知保全システムを導入する投資判断を、ROIと回収期間で試算してみます。
点検機器やセンサー、システム、予備品などへの投資を判断するときは、ROIと回収期間を分けて計算します。ROIは投資額に対して年間でどれだけの純便益を得られるかを、回収期間は初期投資を何年で回収できるかを表す、別々の指標です。
試算は1つの予測値に絞らず、便益を少なめに見積もった低位ケース、標準的な基準ケース、条件がそろったときの高位ケースの3つで行います。試算の形を以下の表に示します。
項目 | 低位ケース | 基準ケース | 高位ケース |
|---|---|---|---|
工数削減 | 36万円/年 | 60万円/年 | 84万円/年 |
緊急修理費の削減 | 30万円/年 | 60万円/年 | 90万円/年 |
機会損失の削減 | 30万円/年 | 90万円/年 | 150万円/年 |
追加運用費 | 36万円/年 | 36万円/年 | 36万円/年 |
年間純便益 | 60万円/年 | 174万円/年 | 288万円/年 |
初期投資 | 240万円 | 240万円 | 240万円 |
ROI | 25.0% | 72.5% | 120.0% |
回収期間(概算) | 4.0年 | 約1.4年 | 約0.8年 |
3つケースにわけて試算した例
この表の金額は、計算方法を示すための例です。実際の試算では、自社の故障履歴、停止時間、作業工数、見積もりを使い、効果を測定できる設備から始めます。複数のケースを用意しておくと、前提が外れたときの影響を事前に確認できます。
年間純便益とROIを計算する
年間純便益の計算では、投資で減らせる費用と、新たに増える費用を分けるところから始めます。
年間純便益 = 工数削減額 + 緊急修理費削減額 + 機会損失削減額-年間追加運用費
ROI = 年間純便益 ÷ 初期投資額 × 100
J-Net21では、投資利益率法を、投資によって得られる増加利益を投資額で割る方法として説明しています。保全の投資に当てはめるときも、便益を足し上げるだけでなく、ライセンス料や保守費、センサーの交換、教育などの追加運用費を差し引いた純便益で計算します。
工数削減額は、削減できる時間に時間単価を掛けて求めます。ただし、空いた時間を別の保全作業に振り向けるだけなら、現金の支出はその分減りません。稟議で説明するときは、実際に減る支出、別の作業に充てられる時間、停止による損失の回避を分けて示すと、効果の中身が伝わりやすくなります。
投資回収期間を計算する
投資回収期間は、前述の表の「年間純便益」を使って概算できます。
投資回収期間(概算) = 初期投資額 ÷ 年間純便益
回収月数(概算) = 初期投資額 ÷ 月間純便益
月間純便益 = 月間の便益-月間の追加運用費
例えば、表の基準ケース(標準的な想定を置いた試算)では、投資回収期間(概算)の式に、初期投資240万円と年間純便益174万円を当てはめます。240万円÷174万円は約1.38となり、端数を丸めて約1.4年としています。
月単位で比べるときは、低位・基準・高位の各ケースで、対象期間と便益・追加運用費の前提をそろえます。
実際の資金繰りを確認したい場合は、分母を現金の増減に限ったキャッシュフローで計算し直します。工数削減で生まれた時間を別の作業に充てるだけなら、現金支出は減らないため、キャッシュフローには含めません。
投資の判断では、ROIと回収期間の両方を確認します。ROIが高くても、初期投資が大きければ資金の回収には時間がかかります。回収が早くても、その後の便益が小さければ長期の効果は限られます。あわせて、安全や品質への影響、設備の残りの使用年数、導入時のリスクも考慮します。
簡易な回収期間法は候補を絞る初期の比較に向いており、投資期間が長く年ごとの便益が大きく変わる案件では、正味現在価値(NPV)や内部利益率(IRR)も検討します。
ROIや回収期間がどの年のキャッシュフローも同じ価値として扱うのに対し、NPVとIRRは、同じ金額でも受け取る時期が遅いほど価値が下がるという考え方(時間価値)を織り込んで投資を評価します。
NPVは、投資期間中に見込む各年のキャッシュフローを、割引率で現在の価値に換算して合計し、初期投資額を差し引いた金額です。割引率には、資本コストなど、自社が投資に求める利回りの基準を使います。計算式は次のとおりです。
NPV = 各年のキャッシュフローの現在価値の合計 - 初期投資額
n年目のキャッシュフローの現在価値 = n年目のキャッシュフロー ÷(1 + 割引率)のn乗
NPVがプラスであれば、割り引いた後でも投資額を上回る価値が残るため、投資する価値があると判断します。
IRRは、このNPVがちょうどゼロになる割引率です。手計算では直接求めにくいため、実務では表計算ソフトの関数などで算出し、求めた値が目標とする利益率を上回っていれば、投資を実行する条件を満たすと判断します。
A工場の年間保全費用は?
ここまでの試算例を積み上げると、A工場全体の年間保全費が見えてきます。
このように、設備1台の月間試算を積み上げていくと、A工場全体の年間保全費と、生産金額に対する比率が具体的な数字として見えてきます。この積み上げ方は、設備の種類や台数が変わっても、期間・設備範囲・費目定義をそろえてさえいれば同じように使えます。
設備保全の費用を同じ定義で把握し、計画的に下げよう
ここまで、A工場を例に、設備保全の費用の内訳と計算方法、比較に使う指標、削減の進め方、ROIと回収期間による投資判断までを一気通貫で見てきました。
保全費の管理は、期間、設備範囲、費目、データ元、分母の定義をそろえ、計画内コスト、計画外コスト、機会損失コストに分けて記録することから始まります。比較には、RAVや生産金額、製造コストに対する保全費率が使えますが、分母の違う数値は比べられません。外部の目安で高い・安いを決めるのではなく、自社の推移と設備別の差から変化の理由を読み取ります。
削減は、重要設備の計画外コスト、内製と外注の分担、記録の定義から見直すと、品質や安全を犠牲にせずに進められます。新しい施策に投資するときは、年間純便益、ROI、回収期間を分けて計算し、複数のケースで試算した数字をもとに判断しましょう。






















