「品質向上に取り組みたいが、何から手をつければよいか分からない」「場当たり的な対応になっていて、根本的な改善につながっている実感がない」。製造現場でこうした悩みを抱えている方は少なくありません。
品質向上に取り組むことで、顧客からの信頼が高まったりコストを削減できたりと、さまざまな効果が見込めます。一方で、上司や経営層から品質向上を求められたり、取引先から品質基準について厳しい目を向けられたりと、プレッシャーを感じている方もいるでしょう。
本記事では、品質向上の基本的な意味や、現場で活用できる具体的なツールや考え方、品質向上を進めるための手順を解説します。加えて、実際にデジタルツールを活用しながら品質向上に取り組んだ製造業2社の事例も紹介します。品質向上について何から着手すべきか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
目次製造業における品質向上とは
品質向上には、製品の品質向上と作業(業務)の品質向上という二つの意味があります。
製品の品質向上とは、顧客に提供する製品の価値を高めることです。一方で、作業(業務)の品質向上とは、製造や管理に関わる業務プロセスの効率性や正確性を高めることを指します。
作業の品質が高まると、結果として製品の品質向上にもつながるため、製品の品質と作業の品質は互いに影響し合う関係にあります。品質向上によって企業の成長を目指すためには、二つの品質に目を向けて改善に取り組むことが大切です。
品質向上によって得られる効果
製品や作業の品質を向上させると、いくつかの効果が期待できます。
まず、顧客満足度の向上です。顧客のニーズや期待に応える製品を提供できれば、信頼関係が築かれ、リピート利用や口コミの拡大につながります。
その結果、企業の信頼性も高まります。高品質な製品を安定して供給し続けることは、企業の発展を支える土台になり、新規顧客の獲得や新たな市場の開拓にも結びつきます。
さらにコスト面にもメリットがあります。品質を高めれば、不良品や手直し、廃棄によるロス、クレーム対応にかかる費用を抑えられます。
最終的には、従業員のモチベーション向上も見込めます。高品質な製品を作ることで、従業員は誇りややりがいを感じられます。品質向上という目標に向かって取り組むことは、個人と組織、両方の成長を後押しするきっかけにもなります。

品質向上によって得られる効果
品質向上のためのツール・考え方
品質向上に取り組もうとしても、実際に何をすればよいのか分からず、行き詰まってしまうことがあります。そうした場面で役立つのが、現場で活用できるツールや考え方です。ここでは、製造業の品質向上において広く使われている5つを紹介します。
標準化
標準化とは、業務のやり方や基準を定め、誰が担当しても同じ品質で仕事ができるようにすることです。手順や基準をマニュアルとしてまとめ、作業者全員がいつでも参照できるようにします。
標準化を進めると、特定の人にしかできない業務が減り、品質のばらつきが抑えられます。また、担当者ごとの判断の違いによるミスが減り、不良や事故の発生を防ぐことにもつながります。さらに、明確な基準があることで、そこからの逸脱に気づきやすくなり、品質トラブルの早期発見にも役立ちます。
5S活動
5S活動とは、整理や整頓、清掃、清潔、しつけという5つの取り組みを通じて職場環境の無駄を省き、生産性を高める活動です。
活動 | 内容 |
|---|---|
整理 | 不要なものを処分し、必要なものを保管すること。対象はモノだけでなく、データや業務プロセスも含む。 |
整頓 | 必要なものを決められた場所に、決められた形で置くこと。いつでもすぐに取り出せる状態を保つ。 |
清掃 | 職場環境や道具を清潔に保つこと。 |
清潔 | 整理、整頓、清掃の状態を維持し、職場環境の衛生を保つこと。 |
しつけ | 整理、整頓、清掃、清潔を継続的に実践し、習慣化すること。 |
5S活動を徹底すると、ミスが発生しにくい環境が整い、不良や手直しにかかるロスを抑えられます。また、異常を発見しやすくなり、トラブルに早く気付ける可能性も高まります。
5S活動に取り組む際は、すべての活動に一気に手をつけるのではなく、段階を踏んで進めましょう。まず、現場の状態を把握して無駄や課題を洗い出し、整理から整頓、清掃、清潔、しつけの順に実施します。さらに、組織体制と仕組みを整えることで、5S活動が現場に定着しやすくなります。
QC7つ道具
QC7つ道具とは、主に数値データを用いて製造工程や製品品質の管理・分析・改善を行うための、7種類の統計的品質管理手法の総称です。
手法 | 内容 |
|---|---|
チェックシート | あらかじめ設定した項目に沿って、データを記入する表 |
グラフ | 数値の比較や変化を把握するために、データを視覚的に表したもの |
パレート図 | 棒グラフと折れ線グラフを組み合わせ、全体の中から影響度の高い項目を見つけ出すための図 |
特性要因図 | 因果関係を視覚的に整理し、結果に大きく影響する要因を明らかにするための図 |
ヒストグラム | データのばらつきや平均、偏りを視覚的に把握するための図 |
散布図 | 一つの事象に関する二つのデータの間に、相関関係があるかを調べるための図 |
管理図 | 品質管理の状態が安定しているかを判断する手法 |
QC7つ道具を活用すると、問題の発生状況をデータとして客観的に把握できるようになり、勘や経験だけに頼らない判断ができます。
4M
4Mとは、製品の品質を決める「人(Man)」、「機械(Machine)」、「材料(Material)」、「方法(Method)」の4要素です。
要素 | 具体例 |
|---|---|
Man(人) | 従業員のスキルやトレーニング、配置など |
Machine(機械) | 使い方や整備、作業のしやすさなど |
Material(材料) | 素材の選択や調達など |
Method(方法) | 作業の標準化やマニュアル整備など |
4Mの観点で検証することで、問題の原因を特定しやすくなり、効果的な対策を立案できます。たとえば、一部の製品が品質基準を満たしていなかった場合、4Mの観点から要因を洗い出すと、以下のような点が考えられます。
Man(人):作業員の技能や手順の理解が不足していた
Machine(機械):整備不足で性能が落ちていた
Material(材料):使用した材料の品質にばらつきがあった
Method(方法):作業手順自体に不備があった
このように一つの視点に絞らず4つの観点から確認すると、見落としを防ぎながら、根本的な原因にたどり着きやすくなります。
なお、4MにMeasurement(検査、測定)とEnvironment(環境)を加えた「5M+1E」や、Management(管理)を加えた「6M」という考え方もあります。
PDCAサイクル
PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定、評価)、Action(対策、改善)というプロセスを繰り返して、継続的に品質を高めていく考え方です。
品質改善の目標や施策を計画し、現場で実行します。その結果を数値やデータで評価し、うまくいかなかった点を踏まえて計画を見直した上で、次の取り組みに反映する、という一連の流れを指します。
品質向上を一度きりの取り組みで終わらせず、継続的に改善していくために、PDCAサイクルを繰り返します。
品質を向上させるための手順
品質向上に取り組む際は、経済産業省と株式会社日本能率協会コンサルティングが提唱した「5つの化」という考え方が役立ちます。
「5つの化」は、可視化、定量化、課題化、実践化、定着化で構成されており、現状の把握から改善の定着までを一連の流れとして進められることが特徴です。どのテーマに取り組む場合も、この5段階をひとまわりで終わらせず、繰り返し回し続けることが重要とされています。ここでは、それぞれの段階で押さえておきたい内容を紹介します。
1.可視化
まず、製品品質の状況や業務の現状を把握し、問題点や改善点を洗い出した上で、最終的なゴールとなる目標を明確にします。
業務の流れや品質に関するデータをグラフやチャートなどで可視化すると、問題点や改善点を見つけやすくなります。たとえば、工程ごとの不良発生件数をグラフに表すと、どの工程で問題が集中しているかが一目で分かるようになります。また、作業の流れをフローチャートに書き出すことで、担当者によって手順が異なる箇所を発見しやすくなります。
このとき、すでに現場にマニュアルがある場合は、その内容と実際の作業実態にずれがないかを確認することも欠かせません。マニュアル通りに運用されているつもりでも、現場では独自のやり方に変化していることは珍しくないため、実態を丁寧に洗い出すことが、後の段階で的確な目標設定につなげる土台になります。
2.定量化
可視化の段階で洗い出した問題点や目標をもとに、品質に関する情報を具体的な数値に落とし込みます。その際、目標の達成度を測るための指標であるKPIもあわせて設定します。
たとえば、可視化で判明した不良の多さについて、「不良率を10%削減する」という数値目標を設定した場合、KPIは不良品の発生件数になります。現場の作業員のスキルにばらつきがある場合は、スキルレベルを数値化し、誰がどの水準を目指すべきかを明確にすることも定量化の一環です。
目標を数値として設定すれば、活動の成果を「達成できているか否か」で正確に評価できるようになります。また、チーム全体が同じ数値目標に向かって取り組めるようになる点も、定量化のメリットです。
3.課題化
設定した目標を達成するために必要な要素を確認し、取り組むべき課題を設定します。課題が複数ある場合は優先順位をつけ、重点的に取り組むべき箇所を明らかにします。
あわせて、誰が取り組みを推進し、誰が最終的な判断を下すのかを決めておきましょう。改善の中心となる部門(品質管理部門や、テーマによっては教育部門など)を定め、そこに専任または兼任の推進担当者を置くと、活動が中だるみしにくくなります。複数の部門が関わる場合は、窓口となる担当者に加え、報告や相談の流れも整理しておくと、次以降の段階がスムーズに進みます。
また、経営層や関係部門の責任者を交えて進め方やスケジュールをすり合わせておくことも重要です。取り組みの目的や内容を全社員に周知し、なぜこの取り組みが必要なのかを丁寧に伝えることで、現場の納得感を持って推進しやすくなります。
4.実践化
課題に応じた対策を検討し、計画を立てて実行します。いきなり全体に展開するのではなく、まずは小さな範囲で試験的に取り組み、段階的に対象を広げていくと、リスクを抑えながら進められます。
具体的には、特に高い品質やスキルを発揮している人(優良な担当者)の作業手順やノウハウを言語化し、マニュアルとして整備する取り組みが有効です。
作業のポイントを聞き出す際は、「なぜそれを実施するのか」「より高いレベルで実施するために必要なことは何か」を意識して引き出すと、暗黙知が形になりやすくなります。担当者自身がポイントをうまく言葉にできない場合は、「もしそれがなかったらどのような不具合が出るか」という切り口で聞くと、勘所を引き出しやすくなります。
取り組みの中で計画とのずれが生じた場合は、その都度計画を見直しながら進めましょう。
5.定着化
定着化とは、対策実施後のデータを収集・分析・評価し、その結果を次の取り組みに反映させる段階です。PDCAサイクルを何度も回して、品質向上の取り組みを組織に根付かせます。
同じ品質基準や業務内容を定着させるために、教育内容を標準化し、誰が指導しても同じ基準を伝えられる状態を作ります。そのうえでスキルマップを作成すると、個人の保有スキルと習熟度を客観的に把握できるようになり、教育担当者が変わっても同じ手順や基準を維持できる体制を整えられます。
あわせて、研修や報告会の開催、表彰制度の導入によって、従業員の意識づけを図ることも有効です。
PDCAサイクルを回す上では、ITツールの活用も欠かせません。品質に関するデータの管理を、紙やExcelから一元管理できるツールへ移行すると、異常の早期発見や原因追究がしやすくなります。これにより、PDCAサイクルをより速く、高い精度で回せるようになります。
品質向上の取り組み事例
ここでは、紙帳票による管理からデジタルツールの活用へと移行し、品質の向上や業務の効率化を実現させた2社の事例を紹介します。自社の状況と照らし合わせ、品質向上の取り組みが現場でどのように活きるのか、イメージする手がかりにしてください。
フジフーズ株式会社の事例
惣菜製品の製造販売を手がけるフジフーズ株式会社の工場では、紙帳票を使って点検作業を行っていました。この運用では、点検すべきタイミングで実際に確認できていたのか把握できないことや、担当者の熟練度によって異常の判断にばらつきが生じることが課題でした。
また、一定数在籍している外国人従業員にとって、日本語で書かれた点検項目は理解が難しく、点検作業が形だけのものになってしまう懸念もありました。
こうした課題の解決に向け、同社は「カミナシ レポート」を導入し、紙ベースの点検項目をデジタル化しました。写真や多言語機能を活用することで、日本語が得意でない従業員でも点検すべき箇所を正確に理解し、記録できるようになりました。
点検記録がデータとして見える化されると、部門ごとの点検実施状況も把握できるようになり、品質問題の早期発見にもつながりました。点検項目をデジタル化してから、大きな事故は発生していません。
株式会社ナニワの事例
餡(あん)や和菓子、デザートなどの原料を製造販売する株式会社ナニワでは、原料や中間品の棚卸しに使う書類や、業務日報や設備機器の点検票など、毎日数多くの帳票を紙で管理していました。この運用は、記録を作成する現場の従業員だけでなく、管理や保管を担う者にとっても大きな負担になっていました。
こうした課題を受け、同社は「カミナシ レポート」を導入し、業務のデジタル化を進めました。とくに棚卸しでは、対象製品にQRコードを発行し、読み込むだけで記録できる仕組みに変えたことで、手作業による数え間違いがなくなりました。記録の電子化をほかの業務にも広めた結果、年間700時間分もの業務削減を実現しました。
業務の効率化にとどまらず、品質管理の面でも効果が表れています。賞味期限や出庫可能期日をあらかじめ登録しておくと、日付が近づいた際に通知が届くため、期限管理の精度が高まりました。また、点検記録に写真を添付できるようになり、報告の精度も向上しています。
品質向上の積み重ねが、顧客や取引先に選ばれる企業をつくる
本記事で紹介した手順や考え方は、品質向上に取り組むための土台になります。まずは、手順に沿って自社の取り組みがどこまで進んでいるか、確認するところから始めてみましょう。
また、品質向上を一時的な活動で終わらせず、組織に定着させるためには、記録の管理や情報共有の仕組みが欠かせません。紙やExcelでの管理に限界を感じている場合は、デジタルツールの活用も検討する余地があります。
品質向上への取り組みを一つひとつ積み重ね、顧客や取引先から選ばれる企業を目指しましょう。





















